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2021-04-30 10:54:00
デクラン・オルークの新作が届きました。

Declan O’Rourke / Arrivals(East West Records, 2021)

ゴールウェイを拠点に活躍するアイルランドのSSW、デクラン・オルークの4年ぶりの7作目が届きました。エディ・リーダーにカヴァーされたり、ポール・ウェラーに絶賛されたりで知られるオルークですが、今回はそのウェラーのプロデュースで、英サリー州にあるウェラーのブラック・バーン・スタジオで録音されています。オルーク自身のアコースティック・ギターやピアノの弾き語りに、曲によってウェラーの弾くヴァイブやハーモニウム、あるいはディーモン・ストリングスによるストリング・カルテットが加わるといった最小限のプロダクションが100点満点のSSWアルバムを作り上げました。敬愛するジョニ・ミッチェルへのオマージュ〈The Harbour〉、ゴールウェイのホームタウンに想いをはせる〈The Stars Over Kinvara〉、難民アスリート、ユスラ・マルディニのシリア脱出を唄った〈Olympian〉など後々歌い継がれるであろう名曲が並んでいます。なかでも圧巻はギターの弾き語りにダブリナーズのジョン・シーハンが弾くフィドルが美しい〈Convict Ways〉。1868年最後の流刑囚を西オーストラリアに運んだHougoumont号を唄ったトランスポーティング・バラッドで、ファースト・フリートを題材にしたピーター・ベラミーのバラッド・オペラ『Transports』を想い起します。

 

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2021-04-13 11:20:00
カフェトラモナ4月のおすすめレコード

カフェトラモナ4月のおすすめです。

 

上左:Neil Young / Young Shakespeare(Reprise Records, 2021)

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ニール・ヤングは節目節目に”フォーク・シンガー”になるというのをかつて読んだことがあります。CSN&Yのツアー終了後『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』をリリースしたニールは、1970年の暮れからカーネギー・ホールの公演を含むソロ・アコースティック・ツアーを行いました。本作は明けて71年1月22日コネチカット州ストラトフォードのシェイクスピア・シアターでのパフォーマンスを収録。2007年にリリースされたマッセイ・ホールの3日後になりますが、マッセイ同様瑞々しい歌声が堪能できます。DVDに収録されたドイツのテレビ・クルーが撮った貴重な映像ではメタルボディのリゾネーター・ギターに持ち替えて〈Dance Dance Dance〉唄う姿も確認できます。

 

上右:John Smith / The Fray(Commoner Records, 2021)

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イングランドのSSW/ギタリスト、ジョン・スミスの6枚目のスタジオ・アルバム。前作ではトラッドも取り上げ、ほぼ弾き語りに近いアルバムでしたが、今回は共作も含め全曲オリジナルで、曲によっては抑え気味のホーンも入る少しポップな仕上がりになりました。プロデュースはジョンとサム・レイクマンとの共同制作で、録音はピーター・ゲイブリエルのリアル・ワールド・スタジオ。コートニー・ハートマン、ミルク・カートン・キッズ、ビル・フリゼール、リサ・ハニガン、サラ・ジャローズと豪華なゲストの客演も聴きどころですが、いちばん内省的なD面が特に素晴らしい。それにしてもサラ・ジャローズの歌声にはいつもキュンとします。

 

下左:Oh Susanna / Sleepy Little Sailor (Deluxe Edition)(MVKA, 2001, 2020)

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オー・スザンナはマサチューセッツ出身でトロントを拠点に活躍するSSW、スージー・アンガーリーダーのソロ・プロジェクト。すでに9枚の作品があり、2001年にリリースされた2ndアルバムが20周年を記念してフライング気味に昨年アナログ化されました。リマスタリングを施し、オリジナルCDの全11曲をA、B、C面に収め、D面には2000年当時のデモ・ヴァージョン3曲と今回ジム・ブライソンのプロデュースで録り直されたアコースティック・ヴァージョン2曲を収録しています。オーティス・レディングの〈I Got Dreams To Remember〉以外は全曲オリジナル。繊細ながらもエモーショナルなオー・スザンナの歌声をお聴きください。

 

下右:Louis Killen ‎/ Gallant Lads Are We(Collector, 1980)

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『The Iron Muse』『Farewell Nancy』『Tommy Armstrong of Tyneside』『Along the Coaly Tyne』などトピックの重要なアンソロジーに数多く参加しているルイス・キレンですが、個人名義のアルバムは意外と少ないようです。トピック盤『Ballads & Broadsides』やフロント・ホールの『Old Songs, Old Friends』辺りがすぐに浮かびますが、本作は1980年のアメリカ録音で、アナログ盤ではいちばん最後の作品になります。副題にSongs of the British Industrial Revolutionとあるようにキレンは英国産業革命の影響を反映したバラッドを集め無伴奏で唄っていますが、デイヴ・バーランドで有名な〈The Dalesman's Litany〉やマディ・プライアとジューン・テイバーのアカペラの感動もよみがえる〈Four-Loom Weaver〉が白眉です。

 

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2021-03-23 11:49:00
『I'm A Rover』『Everything Is Moving』『Histories (Old Black Joe)』

最近コレクションできた7インチ・シングルをご紹介します。

 

Ye Vagabonds『I'm A Rover / Bothy Lads』(River Lea Records, 2021)

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Ye Vagabondsはスウィニーズ・メンやプランクシティの真の後継者と云われるアイルランドの若手兄弟デュオ。A面〈I'm A Rover〉はアイルランドやスコットランドでは有名なナイト・ヴィジティング・ソングで、彼らのヴァージョンは幼少の折、母のGraniaから習ったもの。B面の〈Bothy Lads〉はシラ・フィッシャーとアーティー・トレザイスのシンギングをお手本にしたそうです。シラとアーティーはフォークレガシー盤『For Foul Day and Fair』で唄っていましたね。

 

Neal Casal『Everything Is Moving / Green Moon』(Royal Potato Family, 2021)

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ニール・カサールの7インチは生前ニールが残したベーシック・トラックに友人たちが手を加えて完成させリリースされました。〈Everything Is Moving〉は2013年2月ごろブルックリンのスタジオで録ったバンド編成のトラックに、昨年7月Jon Graboffがペダル・スティールとエレクトリック・ギターを、John Gintyがピアノとハモンドを、そしてJeff HillとJena Krausがハーモニー・ヴォーカルをダビングして仕上がりました。また〈Green Moon〉は2016年の夏にヴェンチェラの自宅近くのスタジオで一人でギターやピアノを弾き、コーラスまで唄ったトラックに、昨年10月Jeff HillとGeorge Sluppickがベースとドラムを加えたものです。いつもながらの歌声ですが、どこか悲しげに響きます。

 

Van Dykes Park『Histories (Old Black Joe) / Souvenir de la Havane』(Corbett vs Dempsey, 2021)

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ヴァン・ダイク・パークスの新作はフィラデルフィアで活躍するアーティスト、デイヴィッド・ハート(David Hartt)のインスタレーション作品用にアレンジを依頼されたフォスターの〈オールド・ブラック・ジョー〉。デイヴィッドのインスタレーションThe Histories (Old Black Joe)は2枚のタペストリーと4つのアンティーク・チェア、そしてヴァン・ダイクの〈オールド・ブラック・ジョー〉で構成されていますが、タペストリーを流用したレコード・ジャケットを眺めながら、流麗なオーケストラにスライド・ギターやスティールパン、はたまたミンストレル・ショーをコラージュしたような〈オールド・ブラック・ジョー〉を聴いていると件のインスタレーションを鑑賞した気分になれるかも。B面はヴァン・ダイクが多大な影響を受けたゴットシャルクの〈Souvenir de la Havane〉。ヴァン・ダイクはアッシュ・グローヴのライヴ盤でも彼の作品を取り上げていました。

 

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2021-03-15 11:57:00
カフェトラモナ3月のおすすめレコード

カフェトラモナ3月のおすすめです。

 

上左:Jimbo Mathus & Andrew Bird / These 13(Thirty Tigers, 2021)

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ギターのジムボ・マサスとフィドルのアンドリュー・バードが出会ったのは1994年ノース・カロライナのブラック・マウンテン・ミュージック・フェスティヴァルでした。その後アンドリューはジムボのスクィーレル・ナット・ジッパーズに参加し一緒にプレイすることになりますが、「いつかフィドルとギターだけでジンボと一緒にレコードを作りたい」とずっと思っていたとのこと。プロデュースはマイク・ヴァイオラ。スタジオの中央にマイクを1本だけ立て、アナログ・レコーダーで一発録りしたそうです。これらの13曲はすべて2人のオリジナルですが、昔ながらのカントリー、ルーラルなブルース、アパラチアン・ミュージックにホワイト・スピリチュアルとどれもオーセンティックかつアーシーなルーツ感満載のアルバムです。

 

上右:Neil Young / The Times(Reprise Records, 2021)

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昨年ネット上で公開された「Fireside Sessions」シリーズ第6弾の「Porch Episode」をEP化したもの。もともとCDとAmazon musicでリリースされていましたが、今年になってアナログ盤もお目見えしました。コロナ禍のなか大統領選とブラック・ライヴズ・マターで大きく揺れ動くアメリカ合衆国で、〈Alabama〉〈Ohio〉〈Southern Man〉など必然的にメッセージ色の強い選曲になったようです。アルバムのタイトルはディランの〈The Times They Are a-Changin'〉のカヴァーから。かつて〈Campaigner〉でニクソンやブッシュにさえ魂があると唄っていたニールですが、今回はトランプにさえ魂があるとは流石に唄いませんでした。

 

下左:Josh Okeefe / Bloomin’ Josh Okeefe(Anti-corp, 2020)

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英国はダービー出身のSSW、ジョシュ・オキーフのデビュー・アルバム。16歳で学校をドロップアウトし、ロンドンやブライトンを放浪。コーヒー・ハウスやレコーディング・スタジオの床で夜を明かしたこともあるとか。2017年にリリースした EP『Josh Okeefe』が評判となり、2019年夏には ビリー・ブラッグの招待でグラストンベリーに出演したこともあります。録音はディランとジョニー・キャッシュが共演したナッシュヴィルは伝説のコロンビア・スタジオA 。ギターとハーモニカの弾き語りスタイルは初期のディランからジャック・エリオットやガスリーにまで遡れますが、〈Young Sailor〉にはイワン・マッコールからポーグスへと連なる英国フォーク・ムーヴメントの叙情性も窺えます。

 

下右:Tony Rose ‎/ Poor Fellows(Dingle's, 1982)

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買い逃していたトニー・ローズの4枚目がコレクションできました。トニー・ローズは4枚のアナログ盤と2枚のCDを残すも2002年に癌で亡くなってしまったイングランドのリヴァイヴァリスト。1978年にニック・ジョーンズやピート&クリス・コーと組んだBandoggsは「円熟期の英国トラッド・フォークが到達した一つの理想郷」と評され、フォークのスーパーグループと云われていました。本作はそのバンドックスの活動を挟んで前作から6年ぶりにリリースされた1982年のソロ・アルバム。トラッド中心に唄ってきたトニーですが、R・トンプスン作〈Down Where the Drunkards Roll〉やP・ベラミーの〈Us Poor Fellows〉など同時代の作家による楽曲をアルバムの半数で取り上げているのが印象的です。極めつけはディランの〈Boots of Spanish Leather〉で、数曲で聴けるベースやシンセが時代を感じさせますが、基本的にはギターとコンサティーナの弾き語り。ベテラン・リヴァイヴァリストによる落ち着いた歌声が味わい深い名盤です。

 

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2021-02-16 18:16:00
カフェトラモナ2月のおすすめレコード

カフェトラモナ2月のおすすめです。

 

上左:Joe Pernice / Could It Be Magic(2020)

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パーニス・ブラザースのフロントマン、ジョー・パーニスはコロナ禍の昨年、2枚の弾き語りアルバムをリリースしました。1枚はオリジナル集『Richard』、そしてもう1枚の本作はバリー・マニロウのヒット曲をカヴァーしたトリビュート・アルバムです。流石にマニロウ本人の作品はトラモナではコレクションの範疇外ですが、ガット・ギター一本で切々と弾き語られる〈哀しみのマンディ〉〈恋はマジック〉〈ニュー・イングランドの週末〉などゴージャスなヒット・メロディはまさに名演で、ティム・ハーディンの『The Homecoming Concert』を想わせます。かつてシナトラは「次に来るのはマニロウだ」と云ったとか。グレイト・アメリカン・ソングブック集に新たな名作が加わりました。

 

上右:Trimdon Grange Explosion / Trimdon Grange Explosion(2018)

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Trimdon Grange Explosionは昨年15年ぶりにデビュー・アルバムがリイシューされ話題になったThe Eighteenth Day Of Mayの元メンバーによって結成された、ロンドンで活躍するエレクトリック・トラッド・バンド。2017年にCDRで限定発売された彼ら唯一のアルバムをCardinal Fuzzがアナログ化したものをやっと入手できました。バンド名をイングランドはダラム州トリムドン・グランジ の炭鉱爆発事故を唄ったバラッドから採るだけあって、ゲイリー&ヴェラ・アスペイが『A Taste of Hotpot』で取り上げたテッド・エドワーズの〈Weepin' and Wailin' Away〉など抜群に渋い選曲。しかし圧巻はマーダー・バラッド〈The Bonnie Banks of Fordie〉の10分半に及ぶパフォーマンス。まるでヴェルヴット・アンダーグラウンドが〈Matty Groves〉を演奏しているかのようです。

 

下左:Marry Waterson & Emily Barker / A Window to Other Ways(2019)

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1977年12歳の時、叔母ノーマと母ラルの『A True Hearted Girl』で初レコーディングを経験し、以降ファミリーのアルバムにはちょくちょく顔を出していたマリー・ウォータスンは、2011年実弟のオリヴァー・ナイトと『The Days That Shaped Me』で本格的にデビュー。本作が5枚目になります。毎回オリヴァーやデイヴィッド・ジェイコック等と共同名義でアルバムをリリースしているマリーですが、今回はオーストラリア出身のSSW、エミリー・バーカーとのコラボ。出会いはキャスリン・ウィリアムスが運営するソングライティングのワークショップで、2人の相性は抜群。これまでのどの共演者よりもしっくり来るようです。プロデュースはやはり同ワークショップで知り合ったアデム・イルハン。ルーカス・ドリンクウォーターのダブル・ベースがいい仕事をし、ウォータスン家では最新のアルバムです。

 

下右:Lal & Mike Waterson ‎/ Bright Phoebus(1972, 2017)

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ラル・ウォータスンの歌声を山櫨子に例えたのはイングランドはランカシャーでレコード店を営むイアン・サウスワースでした。棘を持っていて初めは取っ付き難いがやがて豊かな恵みをもたらすと云うのです。1972年の『Bright Phoebus』はそんなラルが兄のマイクとリリースした名盤の誉れ高いアルバム。R・トンプスン、A・ハッチングス、M・カーシーなど参加した面子だけでなく、ラルとマイクが書いた楽曲の素晴らしさは〈The Scarecrow〉〈Fine Horseman〉など数多くの名カヴァーを生んできました。本作は本編をDisc1に、Disc2に1971年のデモテープを初めて収録したリイシュー・アナログ盤。2002年のトリビュート盤『Shining Bright』でノーマ・ウォータスンが唄っていた〈Song for Thirza〉やステッチャー&ブリスリンの〈One of Those Days〉は当時未発表で、このデモに収められていたのでした。

 

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