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カフェトラモナ6月のおすすめです。
上左:Jeb Loy Nichols / Jeb Loy(Timmion Records, 2021)
97年のソロ・デビュー作『Lovers Knot』はウッドストック産の名盤でしたが、早くも4半世紀弱。ジェブ・ロイ・ニコルズの13枚目、イアン・ゴムとの共演盤を入れると14枚目の新作です。今回はカールトン・ジュメル・スミスやボビー・オローサなどで注目されるフィンランドのソウル・レーベル、ティミオン・レコーズからのリリース。もちろんバックはティミオンのハウス・バンド、コールド・ダイアモンド&ミンクが担当。セッポ・サルミの歌心溢れるギター・ワークやユッカ・エスコラの瀟洒なブラス・アレンジをバックに、齢を重ね渋みを増したジェブ・ロイのソウルフルな歌声が感動的です。かつてダン・ペンやトニー・ジョー・ホワイトらのカントリー・ソウル・レヴューをお膳立てしたジェブ・ロイらしいCountry Got Soulなアルバムです。
上右:Bonnie "Prince" Billy, Nathan Salsburg, Max Porter / Three Feral Pieces(No Quarter, 2021)
コロナ禍の2020年、英国の若手作家マックス・ポーターがシャーリー・コリンズやジョーン・シェリーとの共演で知られるケンタッキー州ルイヴィルのギタリスト、ネイサン・サルスバーグにテキストのスクラップを送ったのが始まりです。ネイサンは隣人のボニー・プリンス・ビリーに声をかけ、共同で詩の断片を〈Orbit Song〉〈Unlearning Chant〉〈Here Song〉の3曲に仕上げました。それらは12インチのアナログ盤の片面に収録され、裏面にはルイヴィルのオスカー・パーソンズによるエッチングが施されています。ボニー・プリンスが唄い、ネイサンがギターを弾いた本作にはジョーン・シェリーもウーリッツァーで参加。アコースティックながらもサイケデリックな一枚です。
下左:Rhiannon Giddens with Francesco Turrisi / They're Calling Me Home(Nonesuch Records, 2021)
カラー・インサートの仲睦まじいツーショットが『No Roses』のシャーリーとアシュリーを想い起すリアノン・ギデンスとフランチェスコ・トゥリッシのコラボ第2作。2020年秋、ダブリン郊外の農場にあるヘルファイアー・スタジオで、今回は2人に加えコンゴのギタリストNiwel Tsumbuとアイリッシュ・フルート、イーリアン・パイプスのEmer Mayockも参加して1週間で録られています。キャロライナ・チョコレート・ドロップス時代に師匠のジョー・トンプソンと録音したことのある〈I Shall Not Be Moved〉の再演やトゥリッシのフレイム・ドラムだけで唄われる〈O Death〉など聴きどころ満載ですが、私なぞはジャッキー・マクシーの歌唱で知った〈When I Was in My Prime〉が甚く沁みわたります。
下右:Muckram Wakes / Warbles, Jangles and Reeds(Highway Records, 1980)
先のモッシー・クリスチャンの1stに於けるジョン・アダムスの貢献には目を見張るものがありました。そのジョンのいたマックラム・ウェイクスの3rdアルバムです。ロジャーとヘレンのワトソン夫妻、ジョンとスージーのアダムス夫妻の2組の夫妻によるバンドで、一時はアルビオン・バンドのジョン・タムスが在籍していたり、ピート&クリス・コーらに合流してニュー・ヴィクトリー・バンドとして活動していたこともありましたが、これは夫妻2組による作品。達者な男性陣がフィドルやメロディオンだけでなくブラスも熟し、シェフィールドのフランク・ヒンクリフを手本にしたバラッドをアカペラで唄ったかと思えば、ミュージック・ホールの唄やカントリー・ダンス・ミュージックも聴かせます。極めつけは〈鉱夫の祈り〉の原曲〈Miner's Prayer〉やライ・クーダーも取り上げた〈Coming in on a Wing and a Prayer〉などのアメリカン・マテリアルでしょうか。
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トラモナ入口のカウンター席の上に飾ってあるジェブ・ロイ・ニコルズの版画は、2011年に限定リリースされた『The Jeb Loy Nichols Special』のアナログ盤ジャケットに使われたものですが、やっとそのアナログ盤をコレクションすることができました。
ジャケット中央にサン・ラを挟んでジョン・コルトレーンとニーナ・シモンがいます。その上には既に版を壊してしまったと云うサンディ・デニーも見えます。裏には今回初めて確認できたニック・ドレイクの姿もありました。
CDには通常盤とボーナス・ディスクとしてスタックスのコンピが付いた2枚組がありますが、ウッド・ベースの音がぐっと膨らんで聴こえるアナログ盤もお楽しみください。
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リヴィング・トラディション誌第137号の表紙を飾ったモッシー・クリスチャンのワン・ロウ・レコーズから頼んでおいたCDが届きました。
モッシー・クリスチャンは、ピート・コーやブライアン・ピーターズが注目するリンカンシャー州出身の若手ミュージシャン。フィドルだけでなくメロディオンやコンサティーナも能くし、ピーター・ベラミーやマイク・ウォータースンに影響された歌唱にも定評があります。
ワン・ロウ・レコーズはそのモッシーが運営するレーベルで、独自のリリースCDこそまだ2枚だけですが、今後は引退してしまったロッド・ストラドリングがかつて創設したミュージカル・トラディションズやヴェテラン・テープスに残された貴重なソース・レコーディングもリリースしていくという頼もしいレーベルです。
今回届いたのは、2019年の記念すべきレーベル第1作であるジム・エルドンとモッシー・クリスチャンの共演作『Fiddle Duets』と、昨年末にリリースされたレーベル第2作でモッシーのソロ・デビュー作『Come Nobles and Heroes』の2枚。どちらも70年代後半にリリースされたフリー・リードの諸作を想わせる超ド級のイングリッシュ・トラッドです。なお、共演者のジム・エルドンはタフティ・スウィフトの2nd『You'll Never Die For Love』に参加し、BBCのアンディ・カーショウがコンパイルした『More Great Moments of Vinyl History』にスプリングスティーンをフィドルで弾き語った〈Dancing in the Dark〉が収録されたという大層なシンガー/フィドラーです。
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トラモナではお馴染みのジェブ・ロイ・ニコルズの新しいシングル『Can't Cheat The Dance』が届きました。
今回はカールトン・ジュメル・スミスやボビー・オローサなどで注目されるフィンランドのソウル・レーベル、ティミオン・レコーズからのリリース。もちろんバックはティミオンのハウス・バンド、コールド・ダイアモンド&ミンク。アコースティックながらもソウルフルな歌声が素晴らしく、かつて『The Jeb Loy Nichols Special』にボーナス・ディスクとしてスタックスのコンピを付けていたジェブ・ロイらしい面目躍如の一枚です。
6月にはティミオンからフル・アルバムもリリース予定。コールド・ダイアモンド&ミンクとがっぷり四つのアルバムが待ち遠しいジェブ・ロイ・ニコルズです。
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カフェトラモナ5月のおすすめです。
上左:Declan O’Rourke / Arrivals(East West Records, 2021)
ゴールウェイを拠点に活躍するアイルランドのSSW、デクラン・オルークの4年ぶりの7作目が届きました。エディ・リーダーにカヴァーされたり、ポール・ウェラーに絶賛されたりで知られるオルークですが、今回はそのウェラーのプロデュースで、英サリー州にあるウェラーのブラック・バーン・スタジオで録音されています。オルーク自身のアコースティック・ギターやピアノの弾き語りに、曲によってウェラーの弾くヴァイブやハーモニウム、あるいはディーモン・ストリングスによるストリング・カルテットが加わるといった最小限のプロダクションが100点満点のSSWアルバムを作り上げました。敬愛するジョニ・ミッチェルへのオマージュ〈The Harbour〉、ゴールウェイのホームタウンに想いをはせる〈The Stars Over Kinvara〉、難民アスリート、ユスラ・マルディニのシリア脱出を唄った〈Olympian〉など後々歌い継がれるであろう名曲が並んでいます。なかでも圧巻はギターの弾き語りにダブリナーズのジョン・シーハンが弾くフィドルが美しい〈Convict Ways〉。1868年最後の流刑囚を西オーストラリアに運んだHougoumont号を唄ったトランスポーティング・バラッドで、ファースト・フリートを題材にしたピーター・ベラミーのバラッド・オペラ『Transports』を想い起します。
上右:Jake Blount / Spider Tales(Free Dirt Records, 2020)
ジェイク・ブラントはロード・アイランドを拠点に活躍するアフリカン・アメリカンのフィドラー&バンジョー・プレイヤー。唄も能くし、この1stソロでも半数の7曲で素晴らしい歌声を聴かせます。これまで女性フィドラーとTuiというオールド・タイム・デュオを組んでいたこともあり、本作も女性フィドラーのタチアナ・ハーグリーヴスとバンジョーとフィドル或いはフィドル2本のデュオを基本とし、数曲でボディ・パーカッションやギター、ベースなどが加わります。プロデュースはホース・フライズのジェフ・クラウス-ジュディ・ハイマン夫妻。楽曲のソースをLucius SmithやDink Roberts、Nathan Frazier & Frank Pattersonなど黒人ミュージシャンだけでなく、Manco SneedやThe Helton Brothersなどネイティヴ・アメリカンにも求め、アパラチアン・ミュージックの奥深さを知らしめてくれました。さらにのっけの〈Goodbye, Honey, You Call That Gone〉ではガット弦のバンジョーがニック・ガレイスのステップダンスのパーカッション効果と相俟ってマルティニークのカリを想わせ、西インド諸島を経由して西アフリカまで誘ってくれます。
下左:Jason McNiff / Dust Of Yesterday(Tombola, 2021)
英国のSSW、ジェイソン・マクニフの7枚目のフル・アルバム。ロンドンを離れヘイスティングスに移り住んで初めての本作はクリスティ・ムーアのプロデュースでも知られるロジャー・アスキューの制作で、イーストボーンにあるロジャーのホームスタジオで録音されました。90年代大学生活を送ったノッティンガムではウィズ・ジョーンズやデイヴィー・グレアムなどのフォーク・ブルースに傾倒し、ソーホーの12Barにはバート・ヤンシュを齧り付きで観るために6か月間毎週通ったとのこと。そんなジェイソンのフィンガーピッキングの弾き語りをロジャーとベス・ポーター(チェロ)、バーシア・バーツ(ヴァイオリン)等が控えめにバックアップします。Dust of Yesterdayのタイトルのとおり、これまでの人生の出来事を綴った作品集です。
下右: / You Can Never Go Fast Eough(Plain Recordings, 2003)
モンテ・ヘルマン監督の『断絶』はちょうど50年前の1971年に制作されました。日本では翌年日劇のアート・シアターで上映されましたが、動くジェイムズ・テイラーに感動したのを覚えています。ジェイムズ自身出来上がった作品は観ていないと95年の来日時に語っていました。撮影には7~8週間くらいかかり、マッド・スライドの〈ハイウェイ・ソング〉はこの時戻ったホテルで書いたとのこと。本作は深夜のTV放送で『断絶』を観てすっかり魅了された音楽プロデューサーのフィリッポ・サルヴァドーリが、初めて劇場のスクリーンでこのロード・ムーヴィーを観たとき作ろうと思い立ったトリビュート・アルバム。ウィル・オールダムやキャレキシコ、マーク・アイツェル、ジャイアント・サンド、ソニック・ユースなどによる新録に加え、登場人物が走行中に聴いたであろうサンディ・ブルやロスコー・ホルコムなどの旧譜も収録されています。劇中少女役のローリー・バードが口ずさんでいた〈サティスファクション〉はキャット・パワーの秀逸なヴァージョンで聴くことができます。
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