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カフェトラモナ5月のおすすめです。
上左:Declan O’Rourke / Arrivals(East West Records, 2021)
ゴールウェイを拠点に活躍するアイルランドのSSW、デクラン・オルークの4年ぶりの7作目が届きました。エディ・リーダーにカヴァーされたり、ポール・ウェラーに絶賛されたりで知られるオルークですが、今回はそのウェラーのプロデュースで、英サリー州にあるウェラーのブラック・バーン・スタジオで録音されています。オルーク自身のアコースティック・ギターやピアノの弾き語りに、曲によってウェラーの弾くヴァイブやハーモニウム、あるいはディーモン・ストリングスによるストリング・カルテットが加わるといった最小限のプロダクションが100点満点のSSWアルバムを作り上げました。敬愛するジョニ・ミッチェルへのオマージュ〈The Harbour〉、ゴールウェイのホームタウンに想いをはせる〈The Stars Over Kinvara〉、難民アスリート、ユスラ・マルディニのシリア脱出を唄った〈Olympian〉など後々歌い継がれるであろう名曲が並んでいます。なかでも圧巻はギターの弾き語りにダブリナーズのジョン・シーハンが弾くフィドルが美しい〈Convict Ways〉。1868年最後の流刑囚を西オーストラリアに運んだHougoumont号を唄ったトランスポーティング・バラッドで、ファースト・フリートを題材にしたピーター・ベラミーのバラッド・オペラ『Transports』を想い起します。
上右:Jake Blount / Spider Tales(Free Dirt Records, 2020)
ジェイク・ブラントはロード・アイランドを拠点に活躍するアフリカン・アメリカンのフィドラー&バンジョー・プレイヤー。唄も能くし、この1stソロでも半数の7曲で素晴らしい歌声を聴かせます。これまで女性フィドラーとTuiというオールド・タイム・デュオを組んでいたこともあり、本作も女性フィドラーのタチアナ・ハーグリーヴスとバンジョーとフィドル或いはフィドル2本のデュオを基本とし、数曲でボディ・パーカッションやギター、ベースなどが加わります。プロデュースはホース・フライズのジェフ・クラウス-ジュディ・ハイマン夫妻。楽曲のソースをLucius SmithやDink Roberts、Nathan Frazier & Frank Pattersonなど黒人ミュージシャンだけでなく、Manco SneedやThe Helton Brothersなどネイティヴ・アメリカンにも求め、アパラチアン・ミュージックの奥深さを知らしめてくれました。さらにのっけの〈Goodbye, Honey, You Call That Gone〉ではガット弦のバンジョーがニック・ガレイスのステップダンスのパーカッション効果と相俟ってマルティニークのカリを想わせ、西インド諸島を経由して西アフリカまで誘ってくれます。
下左:Jason McNiff / Dust Of Yesterday(Tombola, 2021)
英国のSSW、ジェイソン・マクニフの7枚目のフル・アルバム。ロンドンを離れヘイスティングスに移り住んで初めての本作はクリスティ・ムーアのプロデュースでも知られるロジャー・アスキューの制作で、イーストボーンにあるロジャーのホームスタジオで録音されました。90年代大学生活を送ったノッティンガムではウィズ・ジョーンズやデイヴィー・グレアムなどのフォーク・ブルースに傾倒し、ソーホーの12Barにはバート・ヤンシュを齧り付きで観るために6か月間毎週通ったとのこと。そんなジェイソンのフィンガーピッキングの弾き語りをロジャーとベス・ポーター(チェロ)、バーシア・バーツ(ヴァイオリン)等が控えめにバックアップします。Dust of Yesterdayのタイトルのとおり、これまでの人生の出来事を綴った作品集です。
下右: / You Can Never Go Fast Eough(Plain Recordings, 2003)
モンテ・ヘルマン監督の『断絶』はちょうど50年前の1971年に制作されました。日本では翌年日劇のアート・シアターで上映されましたが、動くジェイムズ・テイラーに感動したのを覚えています。ジェイムズ自身出来上がった作品は観ていないと95年の来日時に語っていました。撮影には7~8週間くらいかかり、マッド・スライドの〈ハイウェイ・ソング〉はこの時戻ったホテルで書いたとのこと。本作は深夜のTV放送で『断絶』を観てすっかり魅了された音楽プロデューサーのフィリッポ・サルヴァドーリが、初めて劇場のスクリーンでこのロード・ムーヴィーを観たとき作ろうと思い立ったトリビュート・アルバム。ウィル・オールダムやキャレキシコ、マーク・アイツェル、ジャイアント・サンド、ソニック・ユースなどによる新録に加え、登場人物が走行中に聴いたであろうサンディ・ブルやロスコー・ホルコムなどの旧譜も収録されています。劇中少女役のローリー・バードが口ずさんでいた〈サティスファクション〉はキャット・パワーの秀逸なヴァージョンで聴くことができます。
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Declan O’Rourke / Arrivals(East West Records, 2021)
ゴールウェイを拠点に活躍するアイルランドのSSW、デクラン・オルークの4年ぶりの7作目が届きました。エディ・リーダーにカヴァーされたり、ポール・ウェラーに絶賛されたりで知られるオルークですが、今回はそのウェラーのプロデュースで、英サリー州にあるウェラーのブラック・バーン・スタジオで録音されています。オルーク自身のアコースティック・ギターやピアノの弾き語りに、曲によってウェラーの弾くヴァイブやハーモニウム、あるいはディーモン・ストリングスによるストリング・カルテットが加わるといった最小限のプロダクションが100点満点のSSWアルバムを作り上げました。敬愛するジョニ・ミッチェルへのオマージュ〈The Harbour〉、ゴールウェイのホームタウンに想いをはせる〈The Stars Over Kinvara〉、難民アスリート、ユスラ・マルディニのシリア脱出を唄った〈Olympian〉など後々歌い継がれるであろう名曲が並んでいます。なかでも圧巻はギターの弾き語りにダブリナーズのジョン・シーハンが弾くフィドルが美しい〈Convict Ways〉。1868年最後の流刑囚を西オーストラリアに運んだHougoumont号を唄ったトランスポーティング・バラッドで、ファースト・フリートを題材にしたピーター・ベラミーのバラッド・オペラ『Transports』を想い起します。
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カフェトラモナ4月のおすすめです。
上左:Neil Young / Young Shakespeare(Reprise Records, 2021)
ニール・ヤングは節目節目に”フォーク・シンガー”になるというのをかつて読んだことがあります。CSN&Yのツアー終了後『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』をリリースしたニールは、1970年の暮れからカーネギー・ホールの公演を含むソロ・アコースティック・ツアーを行いました。本作は明けて71年1月22日コネチカット州ストラトフォードのシェイクスピア・シアターでのパフォーマンスを収録。2007年にリリースされたマッセイ・ホールの3日後になりますが、マッセイ同様瑞々しい歌声が堪能できます。DVDに収録されたドイツのテレビ・クルーが撮った貴重な映像ではメタルボディのリゾネーター・ギターに持ち替えて〈Dance Dance Dance〉唄う姿も確認できます。
上右:John Smith / The Fray(Commoner Records, 2021)
イングランドのSSW/ギタリスト、ジョン・スミスの6枚目のスタジオ・アルバム。前作ではトラッドも取り上げ、ほぼ弾き語りに近いアルバムでしたが、今回は共作も含め全曲オリジナルで、曲によっては抑え気味のホーンも入る少しポップな仕上がりになりました。プロデュースはジョンとサム・レイクマンとの共同制作で、録音はピーター・ゲイブリエルのリアル・ワールド・スタジオ。コートニー・ハートマン、ミルク・カートン・キッズ、ビル・フリゼール、リサ・ハニガン、サラ・ジャローズと豪華なゲストの客演も聴きどころですが、いちばん内省的なD面が特に素晴らしい。それにしてもサラ・ジャローズの歌声にはいつもキュンとします。
下左:Oh Susanna / Sleepy Little Sailor (Deluxe Edition)(MVKA, 2001, 2020)
オー・スザンナはマサチューセッツ出身でトロントを拠点に活躍するSSW、スージー・アンガーリーダーのソロ・プロジェクト。すでに9枚の作品があり、2001年にリリースされた2ndアルバムが20周年を記念してフライング気味に昨年アナログ化されました。リマスタリングを施し、オリジナルCDの全11曲をA、B、C面に収め、D面には2000年当時のデモ・ヴァージョン3曲と今回ジム・ブライソンのプロデュースで録り直されたアコースティック・ヴァージョン2曲を収録しています。オーティス・レディングの〈I Got Dreams To Remember〉以外は全曲オリジナル。繊細ながらもエモーショナルなオー・スザンナの歌声をお聴きください。
下右:Louis Killen / Gallant Lads Are We(Collector, 1980)
『The Iron Muse』『Farewell Nancy』『Tommy Armstrong of Tyneside』『Along the Coaly Tyne』などトピックの重要なアンソロジーに数多く参加しているルイス・キレンですが、個人名義のアルバムは意外と少ないようです。トピック盤『Ballads & Broadsides』やフロント・ホールの『Old Songs, Old Friends』辺りがすぐに浮かびますが、本作は1980年のアメリカ録音で、アナログ盤ではいちばん最後の作品になります。副題にSongs of the British Industrial Revolutionとあるようにキレンは英国産業革命の影響を反映したバラッドを集め無伴奏で唄っていますが、デイヴ・バーランドで有名な〈The Dalesman's Litany〉やマディ・プライアとジューン・テイバーのアカペラの感動もよみがえる〈Four-Loom Weaver〉が白眉です。
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最近コレクションできた7インチ・シングルをご紹介します。
Ye Vagabonds『I'm A Rover / Bothy Lads』(River Lea Records, 2021)
Ye Vagabondsはスウィニーズ・メンやプランクシティの真の後継者と云われるアイルランドの若手兄弟デュオ。A面〈I'm A Rover〉はアイルランドやスコットランドでは有名なナイト・ヴィジティング・ソングで、彼らのヴァージョンは幼少の折、母のGraniaから習ったもの。B面の〈Bothy Lads〉はシラ・フィッシャーとアーティー・トレザイスのシンギングをお手本にしたそうです。シラとアーティーはフォークレガシー盤『For Foul Day and Fair』で唄っていましたね。
Neal Casal『Everything Is Moving / Green Moon』(Royal Potato Family, 2021)
ニール・カサールの7インチは生前ニールが残したベーシック・トラックに友人たちが手を加えて完成させリリースされました。〈Everything Is Moving〉は2013年2月ごろブルックリンのスタジオで録ったバンド編成のトラックに、昨年7月Jon Graboffがペダル・スティールとエレクトリック・ギターを、John Gintyがピアノとハモンドを、そしてJeff HillとJena Krausがハーモニー・ヴォーカルをダビングして仕上がりました。また〈Green Moon〉は2016年の夏にヴェンチェラの自宅近くのスタジオで一人でギターやピアノを弾き、コーラスまで唄ったトラックに、昨年10月Jeff HillとGeorge Sluppickがベースとドラムを加えたものです。いつもながらの歌声ですが、どこか悲しげに響きます。
Van Dykes Park『Histories (Old Black Joe) / Souvenir de la Havane』(Corbett vs Dempsey, 2021)
ヴァン・ダイク・パークスの新作はフィラデルフィアで活躍するアーティスト、デイヴィッド・ハート(David Hartt)のインスタレーション作品用にアレンジを依頼されたフォスターの〈オールド・ブラック・ジョー〉。デイヴィッドのインスタレーションThe Histories (Old Black Joe)は2枚のタペストリーと4つのアンティーク・チェア、そしてヴァン・ダイクの〈オールド・ブラック・ジョー〉で構成されていますが、タペストリーを流用したレコード・ジャケットを眺めながら、流麗なオーケストラにスライド・ギターやスティールパン、はたまたミンストレル・ショーをコラージュしたような〈オールド・ブラック・ジョー〉を聴いていると件のインスタレーションを鑑賞した気分になれるかも。B面はヴァン・ダイクが多大な影響を受けたゴットシャルクの〈Souvenir de la Havane〉。ヴァン・ダイクはアッシュ・グローヴのライヴ盤でも彼の作品を取り上げていました。
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カフェトラモナ3月のおすすめです。
上左:Jimbo Mathus & Andrew Bird / These 13(Thirty Tigers, 2021)
ギターのジムボ・マサスとフィドルのアンドリュー・バードが出会ったのは1994年ノース・カロライナのブラック・マウンテン・ミュージック・フェスティヴァルでした。その後アンドリューはジムボのスクィーレル・ナット・ジッパーズに参加し一緒にプレイすることになりますが、「いつかフィドルとギターだけでジンボと一緒にレコードを作りたい」とずっと思っていたとのこと。プロデュースはマイク・ヴァイオラ。スタジオの中央にマイクを1本だけ立て、アナログ・レコーダーで一発録りしたそうです。これらの13曲はすべて2人のオリジナルですが、昔ながらのカントリー、ルーラルなブルース、アパラチアン・ミュージックにホワイト・スピリチュアルとどれもオーセンティックかつアーシーなルーツ感満載のアルバムです。
上右:Neil Young / The Times(Reprise Records, 2021)
昨年ネット上で公開された「Fireside Sessions」シリーズ第6弾の「Porch Episode」をEP化したもの。もともとCDとAmazon musicでリリースされていましたが、今年になってアナログ盤もお目見えしました。コロナ禍のなか大統領選とブラック・ライヴズ・マターで大きく揺れ動くアメリカ合衆国で、〈Alabama〉〈Ohio〉〈Southern Man〉など必然的にメッセージ色の強い選曲になったようです。アルバムのタイトルはディランの〈The Times They Are a-Changin'〉のカヴァーから。かつて〈Campaigner〉でニクソンやブッシュにさえ魂があると唄っていたニールですが、今回はトランプにさえ魂があるとは流石に唄いませんでした。
下左:Josh Okeefe / Bloomin’ Josh Okeefe(Anti-corp, 2020)
英国はダービー出身のSSW、ジョシュ・オキーフのデビュー・アルバム。16歳で学校をドロップアウトし、ロンドンやブライトンを放浪。コーヒー・ハウスやレコーディング・スタジオの床で夜を明かしたこともあるとか。2017年にリリースした EP『Josh Okeefe』が評判となり、2019年夏には ビリー・ブラッグの招待でグラストンベリーに出演したこともあります。録音はディランとジョニー・キャッシュが共演したナッシュヴィルは伝説のコロンビア・スタジオA 。ギターとハーモニカの弾き語りスタイルは初期のディランからジャック・エリオットやガスリーにまで遡れますが、〈Young Sailor〉にはイワン・マッコールからポーグスへと連なる英国フォーク・ムーヴメントの叙情性も窺えます。
下右:Tony Rose / Poor Fellows(Dingle's, 1982)
買い逃していたトニー・ローズの4枚目がコレクションできました。トニー・ローズは4枚のアナログ盤と2枚のCDを残すも2002年に癌で亡くなってしまったイングランドのリヴァイヴァリスト。1978年にニック・ジョーンズやピート&クリス・コーと組んだBandoggsは「円熟期の英国トラッド・フォークが到達した一つの理想郷」と評され、フォークのスーパーグループと云われていました。本作はそのバンドックスの活動を挟んで前作から6年ぶりにリリースされた1982年のソロ・アルバム。トラッド中心に唄ってきたトニーですが、R・トンプスン作〈Down Where the Drunkards Roll〉やP・ベラミーの〈Us Poor Fellows〉など同時代の作家による楽曲をアルバムの半数で取り上げているのが印象的です。極めつけはディランの〈Boots of Spanish Leather〉で、数曲で聴けるベースやシンセが時代を感じさせますが、基本的にはギターとコンサティーナの弾き語り。ベテラン・リヴァイヴァリストによる落ち着いた歌声が味わい深い名盤です。
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