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カフェトラモナ12月のおすすめです。
上左:Geoff Muldaur / His Last Letter – The Amsterdam Project(Moon River Music, 2021)
かつて欧州ツアーの折、知己を得たアムステルダムで音楽人生を振り返ってみる、これまでのレパートリーをヴァイオリン、チェロ、クラリネット、バスーン、フレンチ・ホルンなど室内楽をバックに唄ってみる、というジェフ・マルダーの新作は超大作です。〈Gee Baby, Ain't I Good To You?〉〈Prairie Lullaby〉〈Mistread Mama〉などお馴染みのナンバーがオランダを代表するクラシックやジャズのミュージシャンをバックに唄われます。その歌声の若々しいこと、少しも衰えを感じさせません。J・B・レノアー曲でのグルーヴ感はまるでベター・デイズのようです。プロデュースはメトロポール・オーケストラのヘルト・ヤン・ブロム、1曲だけジム・クェスキンがコーラスで参加した本作は指折りの傑作です。なおタイトル曲は明治3年観音崎沖の海難事故で亡くなったジェフの曾祖父が事故直前にニュージャージーに住む奥様に送った手紙をモチーフにしたもの。77年の初来日時にお墓参りをしたのは何処かで読んだ覚えがあります。
上右:John Sebastian & Arlen Roth / Explore The Spoonful Songbook(BMG, Renew Records, 2021)
ジョン・セバスチャンの久々のアルバムはマッド・エイカーズの名ギタリスト、アーレン・ロスとのラヴィン・スプーンフル時代のセルフ・カヴァー集。ザル・ヤノフスキーのギター・スタイルをこよなく愛するアーレンの強いオファーで実現し、ジェフ・マルダー、マリア・マルダー、モナリザ・ツインズらをゲストに迎えてウッドストックのネヴェッサ・スタジオで録音されました。〈うれしいあの娘〉〈デイドリーム〉〈心に決めたかい〉などスプーンフル時代のヒット曲が並びますが、マリア・マルダーと唄う〈Stories We Could Tell〉だけはソロになってからの超名盤『Tarzana Kid』から。これが良いのです。
下左:John Zorn, Jesse Harris, Petra Haden / Songs For Petra: Petra Haden Sings The Zorn/Harris Songbook(Tzadik, 2021)
ペトラ・ヘイデンの新作はタイトルのとおりジェシ・ハリスとジョン・ゾーンのペンによる楽曲を唄ったもの。2016年の『Seemed Like A Good Idea』に続くペトラとジェシのコラボ作品で、ジョンの曲にジェシが歌詞を付けた〈It Was Innocent〉も再演されています。バックはジェシ自身とジュリアン・ラージ・トリオ。希代のジャズ・ギタリストを伴奏の中心に据え、しかもドラマーがケニー・ウォルセンとなればどうしてもOnce Blueを想わずにはいられません。時折ペトラの歌声にレベッカ・マーティンが過るのは私だけでしょうか。
下右:冬にわかれて / タンデム(こほろぎ舎, P-Vine, 2021)
シンガー、ミュージシャンとして個々でも活躍する寺尾紗穂、伊賀航、あだち麗三郎の3人によるユニット、冬にわかれての2nd。細野バンドのベーシストを擁するトリオということで聴き始めたのですが、伊賀(ベース)とあだち(ドラム)の手堅い演奏が寺尾の凛とした歌声を際立てる、そのバンド感の横溢したアンサンブルに次第に魅了されるようになりました。店内の評判も上々で、古い音楽を聴き直すのも宜しいのですが、新しい世代の新しい音楽をお薦めできるのはまた格別です。バンド名もレーベル名も尾崎翠の作品から採ったとのこと。寺尾さんたいへん文学的な方のようです。
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