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カフェトラモナ10月のおすすめです。
上左:Erika Lewis / A Walk Around The Sun(Self Released, 2022)
エリカ・ルイスはニューオーリンズで活躍するトラディショナル・ジャズ・バンド、チューバ・スキニーのヴォーカリスト兼バス・ドラム奏者。本作は2ndソロ・アルバムですが、バンドの時とは打って変わってその趣は寧ろクラシック・カントリー。穏やかな歌声が映えるSSWアルバムに仕上がっています。プロデュースはデズロンズのジョン・ジェームズ・トゥアーヴィル。アルバムを通してチューバ・スキニーのリーダー、シェイ・コーンがコルネットではなく、フィドルやピアノ、ハーモニー・ヴォーカルでバンド・メイトのために気を吐いています。
上右:Maria Muldaur with Tuba Skinny / Let’s Get Happy Together(Stony Plain Records, 2021)
マリア・マルダーの昨年の新作がチューバ・スキニーとのコラボだったのを見逃してついスルーしてしまいました。そのチューバ・スキニーはニューオーリンズのストリート・ミュージシャンで結成されたトラディショナル・ジャズ・バンド。コルネット、クラリネット、トロンボーン、チューバ、バンジョー、ギター、ウォッシュボードなどでアーリー・ジャズや戦前ブルースを歌い奏でるとあればマリアとの相性は抜群。ウッドストックの洋服店で流れていたのを聴いて惚れ込んだマリアからのオファーとか。ジェフ・マルダーの『His Last Letter』やマイケル・ハーレー『The Time of the Foxgloves』と同様にレジェンドたちの現役感が横溢するアルバムです。
下左:六角精児 / 人は人を救えない(P-Vine Records, 2022)
この春CDで話題になった六角さんの70年代フォークを唄ったカヴァー集がアナログ盤でリリースされました。先ず選曲の良さに驚きます。〈雪の月光写真師〉〈風景〉〈スカンピン〉と並ぶだけでもう脱帽もの。スーパーヴァイザーの長門氏の貢献も大きいでしょうが、ライナーにはリチャード・トンプソンやニール・カサールの名もあり、ご自身も相当のリスナーとお見受けしました。そして何より歌声が素晴らしく、特に女性目線で唄われる〈あたしのブギウギ〉や〈女の証し〉での抑える巧さは俳優さんならでは。俳優の唄う歌はひと味違うと云われる所以でしょう。時おりリトル・フィートやスワンパーズを想わせる若手ミュージシャンたちの演奏も心地よく、アッという間のA、B面です。第2弾も期待したいところ。その時は亡くなったイサトさんや小林監督の名曲も後世に歌い継がれると良いですね。
下右:Green Ribbons / Green Ribbons(Matière Mémoire Editions, 2019)
グリーン・リボンズはバード・エレンのデビー・アーマー、バード・イン・ザ・ベリーのジンウーことベンジャミン・ウェッブ、フランキー・アームストロング、アラスデア・ロバーツの4人による無伴奏ボーカル・プロジェクト。デビーがリアム・ウェルドンの『Dark Horse On The Wind』で聴いた〈The Well Below The Valley〉で始まる本作は全13曲。9曲のトラッドのほか、フランキーが1曲、ジンウーが3曲の自作曲を提供していますが、タイトル曲はジンウーがボドリアンのアーカイヴで見つけたトラッド詞に自作の曲を付けたもの。ペンタングルの〈Once I Had a Sweetheart〉も同じ詞をアダプトして唄ったもののようです。そんな各々が持ち寄った曲をソロ、デュエット、フル・アンサンブルと趣向を凝らし、アカペラ・シンギングの素晴らしさを余すことなく伝えてくれるアルバムです。
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カフェトラモナ9月のおすすめです。
上左:Nora Brown / Long Time To Be Gone(Jalopy Records, 2022)
ノラ・ブラウンの3rdアルバム。かつてティム・バックリィやサンディ・デニーの歴史的トリビュート・コンサートが開催され、最近ではブルックリン・フォーク・フェスティヴァルで有名なセント・アン教会で録音された本作は、ノラのお気に入りのソロ・バンジョー・チューンをまとめたもの。多くはインストで、うたものはA、B面に2曲ずつ収められています。いつも使っているギブソンのスネイク・ヘッド・バンジョーを始め、計4本のバンジョーを使い分けていますが、極め付けはロスコー・ホルコムがお気に入りだったジョン・コーエン所有のバンジョーで弾き語れる〈Rye Whiskey 〉と〈Little Birdie〉のメドレー。16歳の少女のものとは思えぬ落ち着いた歌声に圧倒されます。この夏ニューポート・フォーク・フェスティヴァルで共演した黒人バンジョー奏者ジェイク・ブロウントは「ノラ・ブラウンをまだ聴いていないなら人生を無駄にしている」とツィートしています。
上右:Burd Ellen / Says The Never Beyond(Self-released, 2020)
ニック・ハートの新作にピーター・ベラミーと並んでクレジットされていたバード・エレンは、デビー・アーマーとゲイル・ブローガンのグラスゴーで活躍するフォーク・ユニット。デビーが唄い、ゲイルがコーラスやヴァイオリン、シンセサイザーなどでデビーの凛としたトラッド・シンギングをバックアップします。ニックも唄った〈Sweet Lemany〉収録の1st『Silver Came』は既にフィジカルCDはソールドアウト。データ配信で我慢し、こちらはアナログ盤が入手できた2ndです。20年11月にリリースされ、これから迎える英国の冬の民間信仰や伝統行事に関する唄やキャロルを集めたコレクション。スティーライやウォータソンズで有名な〈Please to See the King〉で幕を開け、レイチェル・ニュートンもハープで参加した本作は、ガーディアン紙の同年ベスト・フォーク・アルバム第6位に選ばれています。
下左:Leon Redbone / Mystery Man(Reel Music, 2022)
オリジナルのリリースは1982年のアコード盤。4作目『From Branch To Branch』に続く初のライヴ音源でしたが、プレス枚数が少なく、レッドボーンのディスコグラフィの中でもレアなアイテムになっていました。が、昨年Good Time RecordsからCD-Rでリリースされていたものが今年になってReel Musicでアナログ化。40年ぶりのリイシューです。2、3作目から〈Nobody's Sweetheart〉〈Sheik Of Araby〉〈T.B. Blues〉などのほか、ブラインド・ボーイ・フラーやビッグ・ビル・ブルーンジーを弾き語っていますが、その卓越したギター・テクニックは秀逸。再認識した次第です。
下右:K.C. Jones / Queen Of The In Between(Self-released, 2021)
プロデューサーのジョエル・サヴォイはケイジャン音楽の名門マークとアンのサヴォイ家の出身で、フィドルやギターの名手。自ら創設したヴァルクール・レコード、リリースの『I Wanna Sing Right』はロマックス親子の収集した楽曲のカヴァー集で、ルイジアナ音楽の過去と現在を繋げる傑作でした。主人公のK・C・ジョーンズことケリィ・ジョーンズはジョエルの公私にわたるパートナーで、先の『I Wanna ~』でも共演。フィドルも能くし、二人がケイジャン・フィドル2本でペトラ・クラークをカヴァーした7インチ『Toi, Tu Joues À L'Amour』は必聴です。で本作ですが、ケイジャン・フィドルは封印し、コケティッシュな歌声を全面的にフィーチャーしたケリィ初のソロ・アルバム。ケリー・ホーガンの傑作『I Like to Keep Myself in Pain』を想わせます。
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カフェトラモナ8月のおすすめです。
上左:Mama's Broke / Narrow Line(Free Dirt Records, 2022)
リサ・マリアとエイミー・ルウ・キーラーのママズ・ブロークはノバスコシア州ハリファックスのフォーク・デュオで、本作はセルフ・リリースの『Count The Wicked』に続く2ndアルバムになります。主にギターとバンジョーのエイミー・ルウがリードを唄い、マルチ奏者のリサ・マリアがフィドルやマンドリンでバックアップ。数曲でベースとドブロの客演があるほか全て2人でスリリングかつ美しい演奏と歌声を聴かせます。インストを含め全曲がオリジナルで、地元ノバスコシアは勿論のこと、英国やアパラチア、遠くは東ヨーロッパのトラディショナル・ミュージックの色濃い影響はボーダーなきフォークと云われる所以です。共同プロデュースがあのビル・ギャレットというのもカナダのSSWファンにとって嬉しい驚きです。
上右:Karen Dalton / Shuckin' Sugar(Delmore Recording Society, 2022)
この春RSDのアイテムとしてリリースされたカレン・ダルトンの未発表音源集。今回発掘されたのは『Cotton Eyed Joe』の翌年1963年1月のコロラド州ボルダーのフォーク・クラブThe Atticのライヴ音源(1曲のみ64年2月9日コロラド大学で開催されたC.O.R.E.人種平等会議のための慈善コンサートから)で、パートナーのリチャード・タッカーとのデュエットが聴けるトラックが5曲含まれています。トラディショナル中心の選曲で、フレッド・ニールやティム・ハーディンなどのカヴァーはありませんが、デイヴ・ヴァン・ロンクやジム・クウェスキンも唄ったスタッフ・スミスの〈If You're A Viper〉やE・C・ボールのゴスペル曲〈When I Get Home〉などこれまでカレンの歌声で聴くことのできなかった楽曲が6曲収録されています。
下左:Leyla McCalla / Breaking The Thermometer(Anti-, 2022)
キャロライナ・チョコレート・ドロップスやアワ・ネイティヴ・ドーターズのメンバーだったレイラ・マッカラの4枚目のソロ作。ハイチに出自を持つレイラが、2000年にジャーナリストで社主のジャン・ドミニクが暗殺されたラジオ・ハイチのアーカイブにインスパイアされて出来上がった、レイラ個人の物語、ラジオ・ハイチの物語、そしてハイチとアメリカの関係の物語を唄ったアルバムです。自作曲やハイチの伝統曲がクレオール語で唄われるなか、カエターノ・ヴェローゾが亡命中のロンドンで録音した〈You Don't Know Me〉が唄われるのが頗る印象的です。
下右:Nathan Salsburg / Affirmed(No Quarter, 2011)
先月ヘブライ語で詩篇を唄った最新作『Psalms』を紹介したネイサン・サルスバーグのソロ1stです。全8曲中7曲がジョン・フェイヒーやバート・ヤンシュ、ニック・ジョーンズなどの影響を窺わせるフィンガー・スタイルのオリジナル・インスト曲。残る1曲はかつてシャーリー・コリンズが唄い、アラン・ロマックスが録音したトラッド曲〈False True Love〉。ここでネイサンはメイデン・ラジオのジュリア・パーセルをコーラスに従え、朴訥乍らも存在感のある歌声を披露してくれます。2ndでもアーチー・フィッシャー1曲と出し惜しみ(?)のネイサンですが、ジョン・スミス『Hummingbird』クラスのトラッド弾き語りアルバムが欲しいところです。
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カフェトラモナ7月のおすすめです。
上左:Joan Shelley / The Spur(No Quarter, 2022)
米国はケンタッキーにあってその佇まいがサンディ・デニーを想わせるジョーン・シェリーの新作。旅先のレイキャビクで地元のミュージシャン達と録った『Like The River Loves The Sea』から3年、ケンタッキーに戻って久々のスタジオ録音です。ベーシック・トラックを夫君のネイサン・サルスバーグと二人で録り、ジェイムズ・エルキントンのプロデュースのもと、ストリングスやブラスなど追加のトラックをダビングし、ビル・キャラハンやメグ・ベアードのヴォーカルはリモートでレコーディングしたようです。レナード・コーエンの〈You Want It Darker〉を引用した〈When The Light Is Dying〉、アンサンクスやカリン・ポルワートにでも唄わせたいトラッドライクな〈Between Rock & Sky〉など聴きどころ満載です。
上右:Nathan Salsburg / תהלים = Psalms(No Quarter, 2021)
ジョーン・シェリーのギタリストのほか、シャーリー・コリンズ『Heart's Ease』での客演、アラン・ロマックス『Root Hog Or Die』などのライナーでトラモナでもお馴染みのネイサン・サルスバーグですが、ソロ作のコレクションはこれが初めて。昨年夏にリリースされた4枚目のソロ・アルバムになります。旧約聖書に収められた「詩篇」(サーム)に曲を付け、ヘブライ語で唄った意欲作で、ジェイムズ・エルキントンやジョーン・シェリー、ウィル・オールダムなどいつものメンバーにサポートされていますが、特にヘブライ語の歌唱指導などイスラエルのSSW、Noa Babayofの貢献が大きかったようです。制作にあたって心がけたように心地の良いアルバムになりました。
下左:Sandy Denny / Early Home Recordings(Earth, 2022)
フェアポート加入前のサンディ・デニーのホーム・デモは80年代の終わり頃から豪ファンクラブ発行のカセット・テープなどで少しずつ紹介されてきましたが、決定打となったのは2010年11月アイランドからリリースされた19枚組CDボックス『Sandy Denny Box Set』でした。19枚中8枚が未発表音源で、ホーム・デモは〈Who Knows Where the Time Goes?〉の2つのバージョンを含む27曲が収録されていました。本作はその27曲を網羅した2枚組アナログ盤で、ホーム・デモ単独でのリリースは初めてになります。アン・ブリッグス作の〈The Time Has Come〉と〈Go Your Own Way My Love〉のほか、トラッドの〈She Moves Through The Fair〉や〈Let No Man Steal Your Thyme〉も唄われていますが、どちらもエジンバラ・フォーク・フェスティバルのライヴ・アルバムにアンの歌唱が収録されている楽曲。偶然ではないでしょう。
下右:Eoghan Ó Ceannabháin & Ultan O'Brien / Solas an Lae - The Light of the Day(Watercolour Music, 2020)
Eoghan Ó Ceannabháinはアイルランド・コネマラ出身のゲーリック・シンガー。2015年にスコットランドのメアリー・アン・ケネディが招集したAon Teangaの一員で、ダブリンのトラッド・バンド、スキッパーズ・アレイの初期のメンバーでした。相棒のUltan O'Brienはそのスキッパーズ・アレイで今でも活躍するフィドラーで、お互いバンド仲間でもあります。既にデータ配信はされてはいたもののフィジカルのアナログ盤がリリースされ届いたのがこの春。歌声とフィドルのアルバムは圧巻で、予約から1年以上待たされた甲斐があるというものです。Treasa Ní Mhiolláinの歌声をサンプリングした〈Cuirt Bhaile Nua〉など鬼気迫るトラックが並んでいます。
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7月15日(金)は都合により臨時休業させていただきます。
ご迷惑をおかけしますが、ご了承いただきますようよろしくお願いいたします。