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カフェトラモナ6月のおすすめです。
上左:Ye Vagabonds / Nine Waves(River Lea Records, 2022)
リヴァー・リー・レコーズからの新譜はイェ・ヴァガボンズの3rdアルバム。前作のEP『I'm a Rover/The Bothy Lads』同様ジョン・マーフィーのプロデュースで、ダブリンのヘルファイア・スタジオで録られています。カーロウ出身でダブリンを拠点に活躍するディアメドとブライアンのマク・グローイン兄弟ですが、ドニゴールのアランモア島に母方のルーツを持ち、これまで島の伝説的シンガー、ローシャ・ナ・ナウラーンのレパートリーを数多く取り上げてきました。今回も終盤で彼女の〈Máire Bhán〉を唄っていますが、自作曲の〈Blue Is the Eye〉では生前のローシャを知る古老のアンドリュー・アーリーの死を悼み、島の伝統に敬意を表しています。クラッシュ・アンサンブルのケイト・エリスとカイミン・ギルモアも参加。チェロとダブル・ベースで不可思議なサウンドスケープを作り、トラディショナルな歌声を際立てています。
上右:Andy Irvine, Paul Brady / Andy Irvine, Paul Brady(Compass Records, 2022)
後進に多大な影響を与えたアンディ・アーヴァインとポール・ブレディによる歴史的名盤のリイシューです。オリジナルはアンディとポールにドーナル・ラニーとケヴィン・バークが加わった4人で録音され、1976年の暮れにアイルランドのマリガンからリリースされました。今回コンパス・レコードによりオリジナル・アナログ・テープからリマスタリングされ、リイシューされています。ディランがこのアルバムに収録されているポールのヴァージョンで〈Arthur McBride〉をレコーディングしたのは有名な話ですが、イェ・ヴァガボンズのブライアンも母親の車にあったこのCDを聴いてアンディ・アーヴァインのファンになり、トラッドを唄うようになったとか。"パープル・アルバム"にちなんだ紫色のレコードです。
下左:Joni Mitchell / Blue Highlights(Rhino Records, 2022)
昨年リリースされた『アーカイヴスVol.2:リプリーズ・イヤーズ』から名盤『ブルー』関連の音源を集めたコンピレーション。A面には〈A Case Of You〉〈California〉のデモやブルー・セッションからボツになった〈Hunter〉、ストリングス付きの〈Urge For Going〉、〈River〉のフレンチ・ホルン・ヴァージョンなどを、B面にはブートレッグで聴き馴染んだBBCのライブ音源から〈My Old Man〉〈Carey〉〈A Case Of You〉〈California〉を収録しています。いつ聴いてもジョニのマウンテン・ダルシマーとJTのギブソンJ-50のコンビネーションは最強ですね。この春レコード・ストア・デイ用のアイテムとしてリリースされ、マネージャーだったエリオット・ロバーツに捧げられています。
下右:Taj Mahal & Ry Cooder / Get On Board – The Songs Of Sonny Terry & Brownie McGhee(Nonesuch, 2022)
タジ・マハールとライ・クーダーが初めて出会ったのはロサンゼルスのアッシュ・グローヴ。1964年のことでタジが22歳、ライが17歳だったそうです。のちにライジング・サンズを結成しますが、最後の録音はタジの1stソロ作で1968年。なので54年ぶりの一緒のレコーディングです。タジとライのほかホアキム・クーダーの3人で録られた本作はアッシュ・グローヴ時代に憧れ、今でも敬愛するサニー・テリー&ブラウニー・マギーのトリビュート・アルバム。ハーモニカでバックアップするためタジがリードを唄うのは11曲中2曲のみ、殆どの曲でライがリード・ヴォーカルを取っています。タジのブルース・ピアノでライが唄う〈Deep Sea Diver〉やライのアコースティック・スライドが素晴らしい〈Pawn Shop Blues〉など聴きどころ満載の聴けば聴くほど素晴らしさが伝わる傑作です。タイトルとジャケットはサニー&ブラウニーが1952年にフォークウェイズからリリースした10インチへのオマージュ。また3人お揃いの白いハットはタジの1stへの表敬でしょうか。
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カフェトラモナ5月のおすすめです。
上左:Various Artists / Fire Draw Near - An Anthology of Irish Traditional Song and Music(River Lea Records, 2021)
リザ・オニールやイェ・ヴァガボンズを輩出したラフ・トレード傘下のリヴァー・リー、その最新作は副題のとおりアイルランドの伝統音楽のアンソロジー。1947年から2013年までの66年間に録音された歴史的音源の中からダブリンで活躍するランカムのイアン・リンチがコンパイルしています。最も古い録音のジョニー・ドーランはパディ・キーナンやデイヴィ・スピラーン等に多大な影響を与えたイーリアン・パイパー。唯一の録音からリールのメドレーが収録されています。またメアリー・ドーランの〈When I Was on Horseback〉はスティーライ・スパンがお手本にしたもの。当時トピックのアンソロジーに収録されていましたが、CD化も配信もされておらず、曲自体も『The Voice of the People』シリーズにも収録されていないので久々のお目見えです。そんなアンソロジーのリリースも現在アイルランドのフォーク・ミュージック・シーンが活況を呈しているからこそ。ラフ・トレードのジェフ・トラヴィスも70年代初期以来のことと云っています。
上右:Jim Moray / The Outlander(Managed Decline Records, 2019)
The Elizabethan Sessionのジム・モレイは「21世紀のイングランドのフォーク界を牽引する存在」。ただどのアルバムも少し大仰になってしまいトラモナでの評価はあまり高くありませんでした。が、この最新作は傑作。サム・スウィーニーやトム・ムーア、ジャック・ラターなど手練れのミュージシャンによるバックアップを見事にコントロールし、ジムは自らの弾き語りを際立てます。M・カーシーやN・ジョーンズが築いたギターでバラッドを唄うと云う方法論を継承し、さらに発展させています。ジョシエンヌ・クラークと素晴らしいデュエットを聴かせる〈Lord Gregory 〉はマディ・プライアやキャサリン・ウィリアムズの歌唱から学んだとのこと。その他スティーヴ・ターナーやクリス・フォスターのレコードにソースを求めるなど今どきで親近感が湧きます。
下左:Jackson Lynch / All By My Ownsome(Jalopy Records, 2021)
ブルックリンのストリング・バンド、ダウン・ヒル・ストラグラーズやニューオーリンズのガレージ・ゴスペル・バンド、ジャクソン&ザ・ジャンクスで活躍するジャクソン・リンチの1stソロ・アルバム。アイルランドで生まれたジャクソンは幼い頃にイーストビレッジに移り住み、メイヨー州に残った祖父はアイリッシュ・フィドラーだったとか。今回は祖父さん譲りの弓捌きは封印し、アンプに繋げたセミアコで自作曲を5曲、伝統的なフォークやブルース、ゴスペルなどを5曲弾き語っています。1曲目のジョシュ・ホワイトの〈In My Time of Dying〉と最後のロニー・ジョンソンの〈Tomorrow Night〉は意図的でしょうか、どちらもディランが唄ったもの。またレオニ・エヴァンスの〈Thanks〉はニューオーリンズ時代の成果でしょう。
下右:Roscoe Holcomb / The Old Church(Jalopy Records, Mississippi Records, 2021)
1972年ロスコー・ホルコムはケンタッキー州の故郷を離れ、マイク・シーガーと西海岸ツアーを行います。2015年にトンプキンス・スクエアからリリースされた1972年のサン・ディエゴ・ステイト・フォーク・フェスティヴァルでのライブ盤もその一環と思われますが、本作はポートランドの古い教会でのパフォーマンスが収められたツアー音源。失われたと考えられていたテープが地元のラジオ局で発見され50年振りに日の目を見たことになります。圧巻はアカペラで唄われる〈The Village Churchyard〉。8分に及ぶこの讃美歌はオリジナル・アルバムでは1975年の『Close To Home』に収録され、その時も1972年のケンブリッジでのライブ・パフォーマンスでした。
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3月18日(金)及び 3月19日(土)は都合により臨時休業させていただきます。
ご迷惑をおかけしますが、ご了承いただきますようよろしくお願いいたします。
本日3/15(火)は都合により17時00分までの営業とさせていただきます。
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カフェトラモナ3月のおすすめです。
上左:The Hackles / The Twilight's Calling It Quits(Jealous Butcher Records, 2018)
マイケル・ハーレーの久々のスタジオ・アルバム『The Time of the Foxgloves』に貢献したカティ・クラボーンとルーク・イドスティのザ・ハックルズはオレゴン州アストリアの夫婦デュオ。ブラインド・パイロットやアリアルーヤ・クワイアでは裏方に徹していた彼らが自身のペンによる楽曲を自ら唄った1stです。バンジョーのカティとギターのルークが双方向マイクを挟み向かい合って唄うという彼らのライヴ・セットアップを忠実に録音するために、スタジオ(タイプ・ファウンドリー)だけでなくアストリアの夫妻の向かいに住むエンジニアのアダム・セルツァーのリヴィング・ルームに機材を持ち出し試行錯誤を繰り返したそうです。北米のトラディショナル・ミュージックに根差しながらも適度に同時代的で睦まやかな夫妻の歌声はフォーク・ミュージックのあるべき姿の一つと云って良いでしょう。名盤です。
上右:The Hackles / A Dobritch Did As A Dobritch Should(Jealous Butcher Records, 2019)
ザ・ハックルズの2nd。アストリアにもやっと本格的なレコーディング・スタジオができ、今回の録音はそのロープ・ルームとお馴染みのタイプ・ファウンドリーの2か所のスタジオで行われ、幾分タイトな仕上がりになったようです。アルバム・タイトルはブルガリアの有名なサーカス一家に生まれ、大戦を逃れた北米で興行主として名を揚げたアル・ドブリッチの人生を謳った〈The Show Goes On〉の一節から取ったもの。カティとルークにホースネックスのガブリエル・マックレーが加わり、穏やかながらも凛とした歌声を聴かせます。他にブラインド・パイロットのライアン・ドブロフスキーやリバー・ホワイレスのハリ・アンダーソンも参加。ハックルズは2作続けて傑作をものしました。
下左:Adam Selzer / Slow Decay(Jealous Butcher Records, 2020)
アリアルーヤ・クワイアの2nd『Big Picture Show』をリリースしたアダム・セルツァーはその後スタジオ内で裏方に精を出していたようで、今月のおすすめ4枚すべてがセルツァー関連の作品になりました。満を持してのソロ・アルバムはノーフォーク&ウェスタン時代の『All The Walls Are Bare』に続く2nd。デモ作のようだった前作に比べ今回はアリア・ファーラーやベン・ニュージェント、カイリーン・キングなど仲間たちに囲まれ、確りとプロダクションされたフォーク・ロックを聴かせてくれます。特にアリア・ファーラーがピアノやコーラスで参加した曲ではアリアルーヤ・クワイアを髣髴させる一面も。110枚プレスの11番です。
下右:Various Artists / Days Full of Rain: A Portland Tribute to Townes Van Zandt(Jealous Butcher Records, 2016)
副題のとおりポートランドのミュージシャンによるタウンズ・ヴァン・ザントのトリビュート・アルバム。ジョリー・ホランド、ブラインド・パイロット、マイナス5など21組がタイプ・ファウンドリーに集まり、13組がアナログ盤に収録され、残りの8組はデジタル音源のDLで聴けるようになっています。極めつけはDL組のマイケル・ハーレー。2004年の『Down in Dublin』でも唄った〈Pancho and Lefty〉をホーリー・モーダル・ラウンダーズのデイヴ・レイシュとフリーク・マウンテン・ランブラーズのルイ・ロングマイアを伴い再演しています。またカティ・クラボーンがハックルズ以前にエリック・クランピットと結成していたフック&アンカーは〈If I Needed You〉をカティとルーク・イドスティのヴォーカルで取り上げ、ザ・ハックルズの萌芽を覗かせます。
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