Vinyl and so on

arrival
2020-09-09 10:45:48
Shirley Collins / Heart's Ease(2020)
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2016年の『Lodestar』に続くシャーリー・コリンズの復活第2作が届きました。プロデュースのイアン・キアリー(元Oysterband)や脇を固めるアルビオン・モリスのジョン・ウォッチャム、ラトル・オン・ザ・ストーヴパイプのデイヴ・アーサーとピート・クーパーなどのバックの面子はほぼ変わりありませんが、今回はスタジオ録音。リラックスできるようにとシャーリーの自宅で録音された「暫定的」な前作に比べ、シャーリーの復活劇は本格的に幕が開けられたようです。

 

ジョージ・メイナード、ボブ・コッパー、ハリー・アプトンなどサセックスの先人達のトラッド曲が並ぶなか、元夫オースティン・ジョン・マーシャルの詞にトラッド曲を付け唄われた〈Whitsun Dance〉と〈Sweet Greens and Blues〉の収録がとりわけ印象的です。オースティン・ジョンはハッチングスと出会う前のシャーリーの夫君で、デイヴィー・グレアムとの屈指の名盤『Folk Roots, New Routes』を企画したり、『The Sweet Primeroses』『Anthems in Eden』『Love, Death and the Lady』などこの時期の一連のアルバムをプロデュースし、シャーリー・コリンズを語るうえで欠かせない人物です。

 

さて〈Whitsun Dance〉ですが、ふだんは男性が踊るモリス・ダンスを第一次世界大戦後のホイットサンでは戦争で夫や恋人を失った女性たちが踊り、モリス・ダンスの伝統を守ったというもの。かつてシャーリーはオースティン・ジョンの詞をボブ・コッパーの〈The Week Before Easter〉のメロディーに乗せ『Anthems in Eden』で唄いました。〈Staines Morris〉が被さるように続けて収録されたオリジナル盤の唐突さには今でも驚かされますが、今回は〈Orange in Bloom〉のモリス・チューンがこの曲に続き、アルビオン・モリスのジョン・ウォッチャムが素晴らしいコンサーティーナを聴かせてくれます。

 

〈Sweet Greens and Blues〉は1960年代に自宅で録ったデイヴィー・グレアムとのセッション・テープが発見され、そのテープに収録されていた曲で、オースティン・ジョンはシャーリーとの2人の子ども、ポリーとロバートのいる家庭について唄っています。本アルバムへの収録はロバートの勧めで行われ、「和解」であり「癒し」であるとシャーリーはあるインタビューで語っています。曲の前後に配置されたインスト曲はシャーリーとは縁の深いアラン・ローマックス・アーカイヴでキュレイターを務めるギタリスト、ネイサン・サルスバーグが用意した〈Sweet Blues and Greens〉。ジェイムス・テイラーを想わせるネイサンのギターが"Remembering Austin John Marshall (1937-2013)"と記されたアルバムに華を添えています。

 

また〈Locked in Ice〉も聴きどころの1つです。北極海域で「幽霊船」になったベイチモ号を唄った曲で、作者のBuz Collinsはドリー・コリンズの息子さん、シャーリーの甥にあたります。フェルサイドにアルバム『Water and Rain』を残し、2002年に亡くなったようで、スタン・ロジャースを想わせるSSWです。シャーリーはオリジナルより幾分テンポを落とし、時代設定も1世紀遡り、ズバリ〈The Baychimo〉であった曲名を〈Locked in Ice〉とし唄っていますが、〈Locked in Ice〉は35年間凍結されていたシャーリーの歌声のメタファーでしょうか。

 

他に初めてレコーディングに参加した『Folk Song Today』で唄った〈Dabbling in the Dew〉の再録音や1959年アラン・ローマックスに同行した"サザン・ジャーニー"で出会ったアパラチアン・トラッドなど生涯を振り返るような選曲。齢84歳、この存在感はディランに勝るとも劣りません。

 

Tracks Side 1

01. The Merry Golden Tree (trad. arr. Collins, Kearey)

02. Rolling in the Dew (trad. arr. Collins, Kearey)

03. Christmas Song (trad. arr. Bob Copper)

04. Locked in Ice (Buz Collins)

05. Wondrous Love (trad. arr. Collins, Kearey)

06. Barbara Allen (trad. arr. Collins, Kearey)

Side 2

01. Canadee-I-O (trad. arr. Collins, Barnes)

02. Sweet Greens and Blues (words Marshall, tune trad. arr. Collins, Kearey)

03. Tell Me True (trad. arr. Collins, Kearey)

04. Whitsun Dance (words Marshall, tune A Week Before Easter, trad. arr. Copper)

05. Orange in Bloom (trad. arr. IKearey)

06. Crowlink (Ossian Brown, Matthew Shaw)

 

Produced by Ian Kearey; Recorded at Metway Studios, Brighton; Mixed by Al Scott;

 

Shirley Collins, vocals

Davy Graham, guitar [bonus single]

 

The Lodestar Band

Ian Kearey, Pete Cooper, Dave Arthur, Ossian Brown, Pip Barnes, John Watcham, Glen Redman

 

with special guests

Nathan Salsburg, Matthew Shaw

2020-07-31 12:23:17
The Unthanks / Live and Unaccompanied : Diversions Vol. 5(2020)
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ジ・アンサンクスはイングランドは北東端のノーサンバーランドでリヴァイヴァリストの両親に育てられたレイチェルとベッキーのアンサンク姉妹を中心とした5人組で、既に6枚のオリジナル・アルバムと4枚のDiversions Seriesをリリースしています。そのディヴァージョンズ・シリーズ(寄り道シリーズ?)でロバート・ワイアットやアントニー&ザ・ジョンソンズ、 モリー・ ドレイク(ニックの母親です)の楽曲を取り上げ彼らに敬意を表したり、スティングのアルバムに参加するなど、フォーク・ミュージックのカテゴリーに収まらない活躍ぶりです。 

 

本作はディヴァージョンズ・シリーズの5作目で、この5月にリリースされた最新作。いつもは姉妹にプロデューサーでピアニストのエイドリアン・マクナリー、ベースとギターのクリス・プライス、ヴァイオリンのニオファ・キーガンを加えた5人でライブを行うアンサンクスですが、 「Unaccompanied, As We Are」と名付けられた昨年の春のツアーは少し異なっていました。姉妹にニオファを加えた女声トリオのみによる無伴奏ツアーで、英国とアイルランドの31か所を巡ったなかから選りすぐりの13曲が収められています。 

 

13曲中トラッドは3曲、他にコニー・コンヴァース、デイヴ・ドッヅ、ピーター・ベラミー、ジョニー・ハンドル、モリー・ドレイク、リチャード・ドウソン、グレイム・マイルズなど渋めのソング・ライターの楽曲が並ぶさまは流石アンサンクスと云ったところです。 

 

なかでも〈Magpie〉は秀逸。もともとロック・バンド、レッド・ジャスパーのデイヴ・ドッヅが書いた楽曲で、Jim Mageean & Johnny Collinsが1982年の『Live at Herga!』で取り上げていました。Jim Mageean & Johnny Collinsのジムは姉妹の父親ジョージ・アンサンクとは地元ニューカッスルで伝説的なフォーク・グループ、キーラーズの仲間同士。またニューカッスル大学でフォーク・ミュージックの学位コースを持っていたジムはアンサンクスがトラッドを唄ううえで公私ともに大きな存在であった筈です。 

 

そんなジムがかつて唄った「一羽なら悲しみ、二羽なら喜び。三羽なら娘、四羽なら息子。五羽なら銀で、六羽なら金。七羽ならそれは明かされたことのない秘密」と云う民間に伝わる数え歌をリフレインに持ったこのプログレ・ナンバーを、レイチェルとベッキー、ニオファはミステリアスながらも息の合った歌声でラルとマイクのウォータースン兄妹の〈Fine Horseman〉や〈The Scarecrow〉クラスの準トラッドに仕立てています。 

 

Special Film Editionということでアルバムにはツアーのオン、オフ・ステージを捉えた27分間のドキュメンタリー『As We Go』を収録したDVDが付いています。そのなかでレイチェル、ベッキー、ニオファはオープニング・アクトのティム・ダリングを加えアンコールで唄った〈Love Is Like A River〉でソウルフルなゴスペル・コーラスを披露。色んなことができる人たちなのですね。 

 

A1. One By One – Connie Converse 

A2. Magpie – Dave Dodds 

A3. I'm Weary of Lying Alone – Trad.  

A4. Geordie Wedding Set:  – Trad. (We'll Aal Be Wed in Our Auld Claiths / Hi Canny Man) 

A5. Griesly Bride – John Manifold, Tom Campbell 

A6. Bees (Honeybee – Connie Converse / The Bee-Boy's Song – Kipling, Bellamy) 

 

B1. Guard Yer Man Weel – Johnny Handle, The Unthanks 

B2. Poor Mum – Molly Drake 

B3. Where've Yer Bin Dick – Lea Nicholson 

B4. We Picked Apples in a Graveyard Freshly Mowed – Richard Dawson 

B5. Bread and Roses – James Oppenheim, Mimi Fariña 

B6. Caught in a Storm – Graeme Miles 

B7. Farewell Shanty – Trad. 

 

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久々に聴いたJim Mageean & Johnny Collinsの『Live at Herga!』。〈Magpie〉はB面5曲目で、A面ではスタン・ロジャースの〈Northwest Passage〉を客席と大コーラスしています。

2020-07-22 13:14:18
『From There To Here』『Fire & Fleet』『Natural Invention』
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今月も大分のタムボリンさんからオーダーしていたCDが届きました。どれも素晴らしいのでご紹介します。

 

Jacqui McShee and Kevin Dempsey / From There To Here(2020)

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バート・ヤンシュ、ジョン・レンボーン亡きあとジャッキー・マクシーがタッグを組んだギタリストは元ダンドー・シャフト、ウィッパースナッパーのケヴィン・デンプシー。ヴァーサタイルなケヴィンのギターがジャッキーの穏やかな歌声にそっと寄り添います。ナット・キング・コールの〈Nature Boy〉で幕をあけ、ジャッキーの唄う感動の〈Lord Franklin〉などトラッド4曲、イェーツの詩に新たに曲を付けた〈Innisfree〉など共作曲5曲の全10曲を収録。トム・ラッシュやジェイムズ・テイラーを想わせるケヴィンの歌声もなかなかです。 

 

June Tabor & Oysterband / Fire & Fleet(2019)

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ジューン・テイバーとオイスター・バンドとのコラボも今回で3作目。昨年秋のツアーに併せて用意されたアルバムで、スタジオ録音は4曲、あとは前回、前々回のツアーからと思われるライブ音源が6曲。そのライブ音源が秀逸。ジョン・ジョーンズのメローディオンの弾き語りで始まる〈The Dark End of the Street〉、客席から笑い声が漏れるビル・ステインズ作〈Roseville Fair〉はレス・バーカー・ヴァージョン、前作でシングル・カットされたジョイ・ディヴィジョンの〈Love Will Tear Us Apart〉、ジーニー・ロバートソンの歌唱から学んだという〈When I Was Noo But Sweet Sixteen〉、そして圧巻のグレース・スリックは〈White Rabbit〉、の流れは凄いです。

 

Peter Knight's Gigspanner Big Band / Natural Invention(2020)

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通常はPeter Knight's Gigspannerで活動している元スティーライ・スパンのピーター・ナイト。ハンナ・マーティンとフィリップ・ヘンリーのエッジラークスと組んだ時はビック・バンドを名乗りますが、前回がライヴ盤だったので初めてのスタジオ録音。更に今回はメローディオンに元ベロウヘッド、スピアーズ&ボーデンのジョン・スピアーズも加わりパワー・アップしています。ピーターのフィドルを中心にドブロやメローディオンなどを駆使したアンサンブルが素晴らしく、とりわけジョン・スピアーズが適度なイングリッシュネスを醸し、いい仕事をしています。もちろんハンナ・マーティンの低く抑えの効いたヴォーカルも良く、ニック・ジョーンズの〈Courting Is a Pleasure〉を唄っています。

 

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2020-07-05 18:36:48
『On Clay Hill』『Good Times Older』
『On Clay Hill』『Good Times Older』

3月のおすすめレコードでご紹介した『English Folk Field Recordings』のリリースで英国に於いて最も信頼にたる新興レーベル、フロム・ヒア・レコーズからその『EFFR』に参加していた2組のシンガーたちのCDが届きました。

 

Belinda Kempster & Fran Foote / On Clay Hill(2019)

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ベリンダ・ケンプスターは60年代にトラッドを唄い始めたシンガー。エセックス出身で叔父が1973年のトピック盤『Flash Company』で〈John Barleycorn〉と〈Hares on the Mountain/The Knife in the Window〉を唄ったアーネスト・オースティン。愛娘のフラン・フートはフロム・ヒア・レコーズを主宰するイアン・カーターのバンド、スティック・イン・ザ・ホィールの一員でもあるシンガーです。本作はベリンダとフラン母娘の初共演アルバムで、数曲でシュルティ・ボックスが鳴るほかは全くの無伴奏。アーネストから習った〈John Barleycorn〉のエセックス・ヴァージョンで幕をあけ、最後はアーネスト本人の歌声が聴ける〈Ernie's Song〉で終わる粋な構成の本作はエセックスのシンギング・ファミリーの伝統が記録された名盤です。

 

Jack Sharp / Good Times Older(2020)

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『EFFR』だけでなく、シャーリー・コリンズのトリビュート・アルバム『Shirley Inspired…』にも参加し〈Adieu to Old England〉を唄っていたジャック・シャープ。元々はフェアポート~タル~サバス・タイプ(?)のサイケ・バンド、ウルフ・ピープルのフロント・マンだそうです。初めてのソロ作はオリジナル2曲とインクレディブル・ストリング・バンドのカヴァー1曲を除くほかはすべて出身地であるベッドフォードシャーゆかりのトラッドの弾き語り。もちろんマーティン・カーシーやニック・ジョーンズを追いかける若者のうちの一人ですが抜きん出ていることは間違いありません。

 

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2020-06-24 18:21:42
Brian Wilson & Van Dyke Parks / Orange Crate Art(1995、2020)
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1995年にヴァン・ダイク・パークスがブライアン・ウィルソンと組んでリリースした『Orange Crate Art』が発表25周年を記念して未発表音源を加えアナログ化されました。当時MM誌の「ベスト・アルバム1995」でアメリカ・ロック部門の第1位に輝いた名作で、同年リリースされたブライアンのドキュメンタリー映画『 I Just Wasn't Made For These Times』のサントラ盤と併せて推す選者もいたのを覚えています。

 

当初ヴァン・ダイクはブライアンに共同の曲作りも誘ったようですが、ブライアンはこれを固辞。ヴォーカルとコーラスに専念し、最終的にヴァン・ダイクの作品にブライアンがシンガーとして全面参加する格好になりました。なので先のギャビー・モレノとの『¡Spangled!』は『Orange Crate Art』の第2弾とも云えるのかもしれません。

 

元々の本編12曲を今回アナログ盤2枚組のA面、B面、C面に4曲ずつで収録し、残ったD面には未発表音源3曲が収められています。その3曲が秀逸。ガーシュインの〈Rhapsody In Blue〉と〈Love Is Here To Stay〉、ルイ・アームストロングの〈What A Wonderful World〉で、特に〈What A Wonderful World〉のブライアンの歌声には感動です。

 

また本編の最後がガーシュインの〈Lullaby〉だったこともあり、ガーシュインは本作のキーワード。ヴァン・ダイクのオーケストレーションは、聴くものをガーシュインやコープランドの世界のみならず、ゴットシャルクなど更にその先へと誘ってくれるようです。

 

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