Vinyl and so on

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2022-11-30 11:31:41
Various Artists: Sea Song Sessions (Topic TSCD612)
Various Artists: Sea Song Sessions (Topic TSCD612)

Various Artists『Sea Song Sessions』CD, Topic, TSCD612, 30 September 2022

タイトルのとおりシー・シャンティや海に纏わる歌を集めたトピック・レコード久々のアンソロジー。元々フォークストン・フェスティバルのために企画されたプログラムが発端でレコーディングに至ったとか。参加しているのはジョン・ボーデン、セス・レイクマン、ベン・ニコルズ、エミリー・ポートマン、ジャック・ラターの5人。全員がソロで活動する傍ら、それぞれベロウヘッド、フル・イングリッシュ、キングス・オブ・ザ・サウス・シーズ、ファロウ・コレクティヴ、ムーア・モス・ラターなどのバンドやプロジェクトでも活躍する英国フォーク・シーンを牽引するミュージシャンたちです。

 

録音はデペッシュ・モードやブラーで知られるベン・ヒリアー所有のサセックス・ダウンズにあるアグリカルチュラル・オーディオで、ベンのプロデュースにより今年5月の二日間でライブ・レコーディングされています。全13曲中ジョン作〈Salvation Army Band Girl〉、セス作曲のインスト〈The Good Ship Anny〉、エミリーがリードを唄うラル・ウォータソン&オリヴァー・ナイトの〈Some Old Salty〉のほかは全てトラッド。5人が2曲ずつリード・ヴォーカルを分け合っています。

 

アルバムはセス・レイクマンが唄う〈The Rambling Sailor〉で始まりますが、1968年マディ・プライアとティム・ハートがリリースした『Folk Songs of Old England Vol. 1』収録のティムのヴァージョンがソース音源。セスは父親がこの歌をランブリング・マイナーとして唄っているのを聴いて初めて知ったそうです。エミリー・ポートマンの〈Short Jacket and White Trouser〉はショートジャケットと白いズボンで男装した女性が船員として船に乗り込むシー・ソングで、〈The Rakish Female Sailor〉や〈Maid That's Deep in Love〉としても知られています。ここでエミリーはA・L・ロイドの『First Person』における無伴奏歌唱をお手本にしているようで、それはジューン・テイバーのヴァージョンを挟むとよく分かります。ジャック・ラターの唄う〈Young Susan on Board of a Man-of-War〉も男装したヤング・スーザンが軍艦に乗り込み恋人のウィリアムと一緒に戦うストーリー。ジャックはフランク・キッドソンの『Traditional Tunes』でこの歌を見つけ、ジューン・テイバーの〈Young Waters〉のメロディで唄っています。ジョン・ボーデンの〈Fire Marengo〉はヤング・トラディションのEP『Chicken on a Raft』でロイストン・ウッドが唄っていたシー・シャンティ。ジョンには『A Folk Song a Day』のフィドル弾き語りヴァージョンやベロウヘッドのファンキー・ヴァージョンもあり聴き較べると面白いでしょう。

 

セス・レイクマン・バンドやフル・イングリッシュなどでの活躍でベースマンとしての印象が強いベン・ニコルズも〈Jack and the Bear Skin〉と〈The Mermaid’s Song〉の2曲を唄っています。どちらも古いブロードサイド・バラッドで、デイヴ・バーランドを想わせる包容力のあるバリトン・ヴォイスは本作の聴きどころの一つ。遅ればせながら素晴らしいフォーク・シンガーとして認識した次第で、ベンの海の歌ばかりを唄うキングス・オブ・ザ・サウス・シーズの諸作が気になってきました。

 

LPの時代に『Farewell Nancy』、『Leviathan!』、『The Valiant Sailor』、『Sea Shanties』など海の歌の素晴らしいアンソロジーを数多くリリースしてきたトピック・レコードですが、その名作リストに新たな一枚が加わりました。

 

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2022-11-19 15:24:47
Angeline Morrison: The Sorrow Songs (Topic TSCD611)
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Angeline Morrison『The Sorrow Songs』CD,Topic, TSCD611, 7 October 2022

アンジェリーン・モリスンはバーミンガム出身で現在コーンウォールを拠点に活躍するアフリカ系の女性SSW。コーンウォールに移り住んだのは16歳の時に海岸沿いのパドストウで毎年メーデーに行われる民俗行事のオビーオス(ホビーホース)・フェスティバルに魅せられたからとか。同地の名門ファルマス大学では人種とアイデンティティの問題や英国の民間伝承における有色人種の位置づけについて研究し、ミュージシャンとしてもソウルやドゥーワップのブラック・ミュージックとフォークを融合させたデュオで活躍する傍ら、映画やドラマの音楽も担当していたようです。

 

2019年頃からローワン : モリスン名義でトラディショナル・フォークをレパートリーに取り入れ、本作に先立つ2022年5月には全曲トラディショナル・フォークを唄った『The Brown Girl and Other Folk Songs』をセルフ・リリース。もちろん〈The Brown Girl〉は肌の色のために捨てられたブラウン・ガールが元恋人に復讐するというチャイルド・バラッドで、マーティン・カーシーの歌唱から学んだそうです。しかしこのバラッドから窺える微かな有色人種の気配は英国のトラディショナル・フォークの中では稀な存在。英国における黒人の歴史は古くはローマ時代にまで遡れるにもかかわらず、英国の伝統的歌謡には黒人の存在は殆ど記録されておらず、アメリカのスピリチュアルにあたる黒人の伝統的音楽は英国には残されていないのです。それはヴィクトリア時代に始まるコレクターたちによるレスペクタブルな収集方法の欠陥に基因し、昨今ではセシル・シャープでさえその評価も見直されているようです。

 

英国で黒人がした経験を英国の伝統的歌謡のフォーマットで書き留めるというのが本作のコンセプト。アンジェリーンはこれを「再ストーリー(re-storying)」 と呼んでいますが、子供の頃からラジオから流れるシャーリー・コリンズなどフォーク・ミュージックには馴れ親しんでいたので自然とメロディーが湧いてきたとのこと。これらの歌がフォーク・クラブなどで唄われ、黒人の物語が歌で語られ続けると良いとアンジェリーンはインタビューに応えています。

 

今回「再ストーリー」されたのは、奴隷貿易時代に奴隷船の通過点になっていたシリー諸島の海岸に打ち上げられた西アフリカの少年の遺体を唄った〈Unknown African Boy (d. 1830)〉、英国初の黒人園芸家として後世に名の残すジョン・イスタムリンの物語〈Black John〉、サーカスの見世物として一世を風靡した白斑のあるアフリカ人の子供ジョージ・アレクサンダー・グラットンと興行主ジョン・リチャードソンとの会話〈The Beautiful Spotted Black Boy〉、クリミア戦争中看護師として活躍したジャマイカ出身のメアリー・ジェーン・コールについて唄った〈Cinnamon Water〉、1919年リヴァプールで起こった人種暴動事件をテーマにした〈Hide Yourself〉など11の経験。

 

なかでも〈The Flames They Do Grow High〉は秀逸。タイトルから〈The Trees They Do Grow High〉を想いうかべますが、ウェールズのカリブ系ウィンドラッシュ世代の両親に生まれた一卵性双生児、ジューンとジェニファーのギボンズ姉妹を唄ったもの。アンジェリーンはコンサーティーナのドローンに導かれ、フィドルとドラムの緊張感あふれる演奏をバックに、のちに「無口な双子(The Silent Twins)」と呼ばれることになるギボンズ姉妹を襲った悲劇をスリリングに唄っています。また最後の〈Slave No More 〉は主人と同じ墓地に埋葬されたモザンビーク出身の奴隷、エヴァリスト・ムショヴェーラの物語。終盤でマーティン・カーシーが墓石に記された碑文を読み上げアルバムを締め括っています。

 

アルバム・タイトルのThe Sorrow Songsは1903年に書かれたW・E・B・デュボイスの古典的名著『黒人のたましい』第14章の章名から採っています。録音はコーンウォールにあるキューブ・レコーディング。プロデュースはイライザ・カーシーが務め、フィドルとストリング・アレンジも手掛けています。アンジェリーンを支えるソロウ・ソング・バンドはグラニーズ・アティックのコーエン・ブレイスウェイト・キルコイン(アングロ・コンサーティーナ、メロディオン、歌)を始め、ヘッドノースのハミルトン・グロス(フィドル、歌)やソロ作のあるクラーク・カミッレーリ(バンジョー、ギター、歌)など英国各地から集められたアンジェリーンと同じ経験を共有するミュージシャンたち。60~70年代にトピックからリリースされたThe Folk Songs of Britainシリーズを髣髴させるアートワークはアンジェリーンがずっと温めていたもの。また曲間にインタールードを挟む構成はイワン・マッコールのBBCラジオ・バラッドに倣ったとか。アルバムの隅々までアンジェリーンのトラディショナル・フォーク愛が溢れる傑作かつ問題作です。全曲トラッドを唄った前作『The Brown Girl and Other Folk Songs』も併せてどうぞ。

 

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2022-11-09 17:10:45
Hannah Sanders & Ben Savage: Ink of the Rosy Morning (Topic TSCD610)
Hannah Sanders & Ben Savage: Ink of the Rosy Morning (Topic TSCD610)

Hannah Sanders & Ben Savage『Ink of the Rosy Morning - A sampling of folk songs from Britain and North America』CD, Topic, TSCD610, 1 April 2022

ハンナ・サンダーズとベン・サヴェージの3枚目のフル・アルバム。これまでの2作はデヴィッド・トラヴァース=スミスのプロデュースでオー・スザンナやケヴィン・ブレイトなども参加しトロントで録られていましたが、今回は英国のヘイスティングスにある海辺の古い校舎で行われた二人だけの録音。初めてのトピックからのリリースです。

 

副題にもあるとおり〈A Winter's Night〉や〈False True Love〉、〈When First I Came to Caledonia〉などドク・ワトソンやシャーリー・コリンズら先達から学んだ英国や北米のトラッドが2本のギターと美しいハーモニーで唄われています。特に〈Earl Richard〉はトニー・ローズの名唱で知られる〈Young Hunting〉のヴァリアント。ベンのドブロに導かれるように唄われるハンナの歌声は鳥肌もの。本作のハイライトのひとつです。

 

またトラッドではありませんが〈River Don't Run〉も聴きどころ。リチャード・ガードとアンナ・クロカットによって書かれた楽曲で、ロンドンのセント・パンクラス駅を建設するにあたり取り壊されたアガー・タウンと暗渠になったフリート川について唄われています。ベンはニック・ハートがケンブリッジのフォーク・クラブで唄うのを聴いてすぐにこの唄の虜になったとか。ニックは2017年の1st『Nick Hart Sings Eight English Folk Songs』に収録しています。名曲です。

 

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2022-11-01 23:36:34
Derek Piotr / Yes, They All Sing - Nathan Salsburg Version(DPSR, 2022)
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Derek Piotr / Yes, They All Sing - Nathan Salsburg Version(DPSR, 2022)

デレク・ピョートルの新作『The Devil Knows How』は日常生活の中で継承される歌の伝統に対する敬意が伝わる名盤でした。本作はその冒頭を飾った〈Yes, They All Sing〉をジョーン・シェリーのギタリストとしてお馴染みのネイサン・サルスバーグがリアレンジしたもの。1939年の歴史的録音を行ったハルパート博士とリーナ・タービーフィル夫人との会話に寄り添うように奏でられるギターがネイサンのLandwerkプロジェクトを想わせ、アラン・ロマックス・アーカイヴのキュレーターも務めるネイサンのデレクに寄せる共感を表しています。12インチのアナログ盤に1曲のみ収録。裏面にも溝がありますが音は入っていません。限定10枚プレスの超貴重盤。なんとも不思議なレコードです。

 

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2022-10-28 17:50:23
Derek Piotr『The Devil Knows How』
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Derek Piotr『The Devil Knows How』DPSR, Gourd Recordings, 2022

 

昨年から今年頭にかけてロンドンのDeath Is Not The Endから『Last Wisps of the Old Ways: North Carolina Mountain Singing』と『Ever Since We've Known It: More North Carolina Mountain Singing』の2枚のノースカロライナのマウンテン・ソング集がリリースされました。監修をしたのは米国のミュージシャンで民俗学者のデレク・ピョートル。

 

これまでクラシック音楽や電子音楽にインスパイアされた作品が多かったデレクですが、2019年頃からアパラチアの民俗音楽に傾倒し、米国議会図書館の棚から1939年にハーバート・ハルパートによって行われたノースカロライナ州エルク・パークに住むリーナ・ベア・タービーフィル夫人と彼女の一族ベア・ファミリーの録音を発見します。その音源に自身で行った存命中のタービーフィル夫人の娘ニコラ・プリチャードのフィールド・レコーディングなどを加えてキュレートしたのが先の2枚のコンピレーション。特に後者の『Ever Since We've Known It』は「もう一人のテキサス・グラッデン」ともいわれるリーナ・ベア・タービーフィルに焦点をあてたアルバムで、タービーフィル夫人はThe Old-Time Herald誌の表紙を飾り特集も組まれベア・ファミリーの歌声は高く評価されています。7月には3枚目の『Come, Let Us Sing』もリリースされベア・ファミリーの三部作は完結したようです。

 

さて『The Devil Knows How』です。エクスペリメンタルな作品を得意とするデレクですが、今回はベア・ファミリーの録音に刺激されアパラチアの伝統音楽に真摯に向き合っています。タービーフィル夫人を始め、テキサス・グラッデン、フランク・プロフィットなど先達の歌唱をお手本にチャイルド・バラッドやローカルなマーダーソングを抑制の効いたギターやペダル・スティールをバックに溌溂と唄っています。

 

全10曲中8曲がトラッドで、自作曲は〈Yes, They All Sing〉と〈They'd Sing Old Songs, and They'd Sing the New Ones〉の2曲。どちらもタービーフィル夫人若しくは娘の二コラのインタビューにギターとペダル・スティールの演奏を被せたインストで、ここら辺りにデレク特有のエクスペリメンタル感が醸されています。タイトルのTheyはベア・ファミリーを指し、家族の中で歌の伝統がどのように継承されたかが語られ、2曲のインストによって母と娘が紐付けられます。

 

トラッドでは〈George Collins〉が白眉。かつてシャーリー・コリンズも唄ったチャイルド・バラッドですが、デレクはそのノースカロライナ・ヴァージョンをタービーフィル夫人の歌唱をお手本にハーディーガーディの演奏にのせて切々と唄っています。また最後の〈Lee Mills〉はオザーク郡のバリー&クレメンタイン・サターフィールド夫妻の歌唱に倣ったもの。いつもフィールド・レコーディングに使うズームH4nで録音し、ノン・ミックス、ノン・エディットのまま収録されたデレクの無伴奏歌唱がフィールド・レコーディングのザラッとした手触りを演出してアルバムを締め括っています。

 

本作を契機に活動拠点をニューヨークからノースカロライナに移したとのこと。日常生活の中で継承される歌の伝統に対するデレクのリスペクトがひしひしと伝わる名盤です。

 

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