Vinyl and so on

1995年にヴァン・ダイク・パークスがブライアン・ウィルソンと組んでリリースした『Orange Crate Art』が発表25周年を記念して未発表音源を加えアナログ化されました。当時MM誌の「ベスト・アルバム1995」でアメリカ・ロック部門の第1位に輝いた名作で、同年リリースされたブライアンのドキュメンタリー映画『 I Just Wasn't Made For These Times』のサントラ盤と併せて推す選者もいたのを覚えています。
当初ヴァン・ダイクはブライアンに共同の曲作りも誘ったようですが、ブライアンはこれを固辞。ヴォーカルとコーラスに専念し、最終的にヴァン・ダイクの作品にブライアンがシンガーとして全面参加する格好になりました。なので先のギャビー・モレノとの『¡Spangled!』は『Orange Crate Art』の第2弾とも云えるのかもしれません。
元々の本編12曲を今回アナログ盤2枚組のA面、B面、C面に4曲ずつで収録し、残ったD面には未発表音源3曲が収められています。その3曲が秀逸。ガーシュインの〈Rhapsody In Blue〉と〈Love Is Here To Stay〉、ルイ・アームストロングの〈What A Wonderful World〉で、特に〈What A Wonderful World〉のブライアンの歌声には感動です。
また本編の最後がガーシュインの〈Lullaby〉だったこともあり、ガーシュインは本作のキーワード。ヴァン・ダイクのオーケストレーションは、聴くものをガーシュインやコープランドの世界のみならず、ゴットシャルクなど更にその先へと誘ってくれるようです。
来店の際にリクエストしてください。

数年前その風貌と本格的なトラッド・シンギングのギャップに驚かされたシンガー兼メローディオン奏者にコーエン・ブレイスウェイト・キルコインがいますが、そのコーエンが在籍するイングランドのトラッド・トリオ、グラニーズ・アティックの昨年出た最新作とコーエンとリード・ヴォーカルを分け合うもう一人のシンガー、ジョージ・サンサムの初ソロ作が到着しました。
Granny's Attic / Wheels of the World(2019)
グラニーズ・アティックはコーエン・ブレイスウェイト・キルコイン(歌・メローディオン・コンセルティーナ)、ジョージ・サンサム(歌・ギター)、ルイス・ウッド(フィドル)からなるウスターの3人組。既に自主制作のEP『Mind the Gap』(2011) とフル・アルバム『Better Weather』(2014) 、ワイルドグースからリリースされた『Off the Land』(2016) があり、本作は3枚目のフル・アルバムです。
全10曲中、3曲あるインストのうち1曲がルイスのオリジナルの他はすべてトラッド。3曲ずつコーエンとジョージがリード・ヴォーカルを分け合い、タイトル曲の〈Wheels of the World〉は二人で交互に唄っています。プロデュースはショーン・レイクマン、スペシャルサンクスにはレイクマン兄弟やキャサリン・ロバーツの他にピート・コー、ミック・ライアン、ニック・ドウの名前が並んでいます。
George Sansome / George Sansome(2020)
もう一人のシンガー、ジョージ・サンサムの初めてのソロ・アルバム。ニック・ジョーンズやイアン・ジャイルズなど同時代の先輩シンガーはもとよりボブ・ハートやジャック・ノリスなどトラディストたちの歌声もお手本にする研究熱心さは頼もしい限り。溌溂とした伸びやかな歌声がクロウズのミック・ライアンを想わせます。プロデュースは売り出し中のベン・ウォーカー。もちろん全曲トラッドでギターの弾き語り。1曲だけダブル・ベースで参加しているトム・ベイリーはトンプソン・ツインズのトムでしょうか。
ご来店の際にリクエストしてください。

移住先のアムステルダムで再編した、イアン・マシューズ以外はすべてオランダ人のマシューズ・サザン・コンフォート。既に新作『New Mine』がリリースされていますが、これは前作の『Like A Radio』からカットされた10インチ・シングルです。
A面の〈Bits And Pieces〉と〈The Thought Police〉がアルバム『Like A Radio』からで、前者はプレインソング名義でリリースされたEP『A To B』に収録されていた〈A Fool For You〉をリライトしたもの、後者は2010年の再結成のときから参加しているバート・ヤン・バートマンズとの共作。
B面は〈Woodstock〉のブラッドリー・コップによるリミックス・ヴァージョンと1970年にオランダでラジオ用にレコーディングされた〈I Believe In You〉で、もちろん〈Woodstock〉は当時全英1位を獲得したマシューズの代表曲。79年6月の来日の折、前年の『Stealin' Home』がヒットし、AOR路線を歩み始めたマシューズが古いファンへの唯一のサービスと云わんばかりにコンサート冒頭にアカペラで唄ったのが思い起されます。

先のノラ・ブラウンに続くJalopy Recordsの第8弾はCDのみのリリース。Fatboy Wilson & Old Viejo Bonesは、昨年10月にJalopy Traveling Folk Festivalのツアーで日本にやって来たFour o'Clock Flowersのサモア・ウィルソンとBrotherhood of the Jugband Bluesのアーネスト・ゴメスが組んだ新しいプロジェクトです。
アーネストのギターとハーモニカをバックにサモアが唄うと云うコンセプトはフォー・オクロック・フラワーズと同様ですが、今回は12曲中サモアが4曲、アーネストが1曲オリジナルを書いています。またカヴァー曲もメンフィス・ミニー、カーター・ファミリー、スリーピー・ジョン・エステス、ファッツ・ウォーラーなどお馴染みの布陣のなか、ナイジェリアはジュジュ・ミュージックのイノヴェイター、プリンス・アデクンレを取り上げているのが興味深いところです。
ご来店の際にリクエストしてください。

いつも良質なフォーク・ミュージックを届けてくれる大分のCDショップ、タムボリンさんからオーダーしていたCDが届きました。どれも素晴らしいのでご紹介します。
Benji Kirkpatrick & The Excess / Gold Has Worn Away(2019)
ベンジー・カークパトリックはイングランドのフォーク・レジェンド、ジョン・カークパトリックとスー・ハリス夫妻の息子さん。FaustusやBellowheadでブズーキ奏者として活躍し、最近ではスティーライ・スパンの最新作にも参加しています。本作はソロ6作目ですが、ドラムとベースを伴ったギター・トリオならぬブズーキ・トリオ編成。前作がジミヘンのカヴァー集であったことからの必然かもしれません。エネルギッシュで溌溂としたフォーク・ロックを聴かせます。
The Old Swan Band / Fortyfived(2019)
イングランドのカントリー・ダンス・バンドの老舗中の老舗、オールド・スワン・バンドの結成45周年を記念するアルバムです。デビュー作『No Reels』以来、一貫して田舎のダンス・ミュージック(それもイングランドの)を演奏し続けるOSB。80年代の初めにロッド・ストラドリングのメローディオン主導の編成からポール・バージェスやファイ・フレイザーのフィドルを中心としたスタイルに変化してきましたが、ブレの無いスタンスは 天晴!!! としか云いようがありません。本作でもマテリアルを広くスカンジナビア、ケベック、ドイツなどに求めても、奏でられるのは何処までもイングランドなのです。
Ruth Hazleton / Daisywheel(2019)
オーストラリアの女性フォーク・デュオ、Kate Burke & Ruth Hazletonのルースのソロ・アルバム。もう一人のケイトは既にフォーク・ミュージシャンのルーク・プラムと素晴らしいデュエット・アルバム『Luke Plumb & Kate Burke』をリリースしていますが、本作はそのルークのプロデュース。彼女たちの魅力のうちの一つにその磨かれた選曲センスがありますが、今回もニック・ジョーンズが唄った〈Ten Thousand Miles〉やカレン・ダルトンが唄った〈Same Old Man〉などが聴きどころでしょう。もちろんカリン・ポルワートを想わせるルースの奥行きのある歌声も魅力です。
ご来店の際にリクエストしてください。