Vinyl and so on


年末からずっとストリーミングで聴いていたデヴィッド・クロスビーの新譜、やっとブツが届きました。
クロスビーのソロ名義であってもベッカ・スティーヴンス、ミッシェル・ウィリス、マイケル・リーグの若手3人との共同制作で、ジョニ・ミッチェルの「ウッドストック」以外は曲作りをほぼ4人が共同で行い、リード・ヴォーカルも分け合っています。しかし、聴けるサウンドはデヴィッド・クロスビーそのもので、1stソロ『If I Could Only Remember My Name』、それもB面2曲目「トラクション・イン・ザ・レイン」からお終いまでの一連の流れを髣髴させます。
アルバム全体で聴けるベッカとミッシェルのヴォーカルがジョニ・ミッチェルを想わせ、「ジョニ・ミッチェルとデュオでやりたかったことを若手と具現化した」というRC誌の評は頷けるところ。オリジナル・バーズで「フォー・フリー」を聴いた時の感動が蘇ります。

Jimmy Aldridge & Sid Goldsmithは、イングランドのフォーク・デュオで、Laura Smyth & Ted Kempと並んで今一番カフェトラモナが注目しているイングランドのシンガーです。
本作は彼らの3枚目のアルバムで、昨年9月にリリースされていましたが、いっときアマゾンでCDを扱っていなかったので本人たちのホームページから直接購入したためやっと年末に届きました。なんでもディストリビューターが日本語の住所表記がよく分からなかったとか。
全11曲のうち、4曲がトラッド、4曲が自作曲、残り3曲がカヴァーで、トラッドでは奇しくもLaura Smyth & Ted Kempが最新作でタイトル曲として取り上げている「The Poacher's Fate」を唄っています。
いわゆるPoachers Songで、ブロードサイド・バラッドには密猟したあげくに猟場番人の罠にはまり、殺されたり、タスマニアに流刑された密猟者(ポーチャー)を唄ったバラッドが数多く残されています。マーティン・カーシーもアルビオン・カントリー・バンド『Battle of the Field』で「Gallant Poacher」を取り上げています。
18世紀のイギリス農村部では市場経済の発展に伴い、これまで共同体に解放されていた「コモン」とよばれる共有地の、大地主によるエンクロージャ「囲い込み」(排他的占有)が行われ、零細の農民たちは自分たちの農地や狩猟地を奪われてしまいます。生活を守るために彼らが取った手段は、これまで何世代にもわたって行ってきた狩猟を引き続き行うことでした。「密猟」として。したがって「密猟」は、トラッドの世界においては大地主などの支配層に対するカウンターな行動として捉えられているのです。
そんな唄の数々をジミーとシドは、自らの奏でるバンジョーとギターのほか、抑制のきいたフィドル、ベース、ドラムをバックに切々と唄います。特に自作曲ではジミーがイニシアティブを取っているようで、そのポール・ブレイディを想わせる歌声は聴くものの心をとらえて離しません。
カヴァー曲も秀逸で、toramona's 99でもご紹介したリアム・ウェルドンの「Via Extasia」のほか、Joseph Campbellの詩にJeff WesleyがTrad曲を付けた「The Seasons」はノーフォークの小鳥の囀りをバックにアカペラで唄われています。ジミーとシドはこの曲をペタ・ウェッブとケン・ホールのCDで学んだそうですが、この曲を収録したアルバム『As Close as Can Be』も名盤です。
Many a Thousand Track List
01. Hope and Glory (Jimmy Aldridge, Sid Goldsmith)
02. Working Chap (Trad. , Additional lyrics Martin Carthy)
03. Turning of the Year (Jimmy Aldridge, Sid Goldsmith)
04. Reedcutter's Daughter (Trad. )
05. The Last Ploughshare (John Conolly)
06. Hawk's Call (Trad. )
07. A Monument to the Times / The Stepped Ford (Jimmy Aldridge, Sid Goldsmith)
08. Via Extasia (Liam Weldon)
09. The Poacher's Fate (Trad. )
10. The Tide (Jimmy Aldridge, Sid Goldsmith)
11. The Seasons (Joseph Campbell, Jeff Wesley, Trad. )

以前ご紹介したロバート・エリスとの『Dear John』が素晴らしかったコートニー・ハートマンの新作です。
今回は、カナダのルーツ系バンド、Fish & BirdのSSWでバンジョー奏者のテイラー・アシュトンと組んでいます。で、このテイラー・アシュトンもめっぽうバンジョーが上手く、二人の絶妙なアンサンブルの上を漂うように流れる浮遊感溢れる歌声もたまりません。
自作曲の間に散りばめられたニック・ドレイクとビル・ウィザース、センス抜群の選曲で、時折聴こえるポンプ・オルガンや極々控えめのブラスも内省的な歌声を際立てます。2018年のベスト間違いなしのアルバムです。

フェアポート・コンベンションの『A Tree With Roots』は、既発表の音源ながらもフェアポート関連のディラン曲がまとめて聴けるなかなかの好盤でした。
『13 Rivers』は、その中で「Open The Door Richard」を唄っていたリチャード・トンプソン、個人名義で18枚目のスタジオ・アルバムです。
このところバディ・ミラー、ジェフ・トゥイーディと他人にプロデュースを任せていたリチャードですが、今回は『Dream Attic』以来のセルフ・プロデュースです。そしてリズム・セクションは、ドラムにマイケル・ジェローム、ベースにタラス・プロドヌークのいつもの布陣で、セカンド・ギターにギターテックのボビー・アイヒホーンが加わります。もちろんお馴染みのレイ・ケネディ夫人、Siobhan Maher Kennedyは今回もコーラスで健在です。
タイトルの『13 Rivers』ですが、収録曲1曲1曲を川にたとえ、ジャケット内側には13曲の川が流れ込む湖のマップがリチャード自身のイラストにより描かれています。
リチャードの歌声は相変わらず力強く、愛用のストラトは今回も炸裂しています。年老いてもなお枯れることのない現役感満載のスタンスは感動的ですらあります。
後半のC面、D面では女性コーラスも加わり、マンドリンの音色と相俟って『First Light』あたりのリチャード&リンダ・トンプソンを思わせる秀作です。