Vinyl and so on
T-Bone Burnett『The Other Side』Verve Forecast, 2024
このところアブストラクトとかエクスペリメンタルで括られるアルバムのリリースが続いていたT・ボーン・バーネットが戻って来たとか。確かに初期のディランを想わせるフォーキーな佇まい。ギブソンやエピフォンの古いギターを手に入れたのでと云う話もあるようで、全篇でコ・プロデューサーでギタリストのコリン・リンデンがいい仕事をしています。ロザンヌ・キャッシュもコーラスで参加。全12曲はすべてオリジナルで、ローリング・サンダー・レヴューからの友人スティーヴン・ソールズと共作した〈The First Light Of Day〉やさらにボブ・ニューワースも加え70年代に三人で書いたと云う〈Hawaiian Blue Song〉が素晴らしい。こちらがOther Side?
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Johnny Campbell『True North』Self-released, 2024
「現代のビリー・ブラッグ」とも云われるフォーク・シンガー、ジョニー・キャンベルの2ndです。北部イングランドのフォーク・シーンで活躍するジョニーはノーサンバーランドからダラム、ランカシャー、マージーサイドまで8箇所を巡り、各地の頂き若しくはその付近でフィールドレコーディングを敢行。唄や演奏の合間に小鳥の囀りや風の音が聴こえます。
レイ・フィッシャーの名唱でお馴染みの子守歌〈Bonny at Morn〉はスコットランドとの国境近くチェビオット丘陵のスロープで録られていますが、ここではコリン・ロスの奏でるスモールパイプの代わりに丘を吹き降ろす風の音がジョニーの歌声に寄り添っています。またジェイムズとサムのガレスピー兄弟の参加した〈Here's the Tender Coming〉はタインサイドで有名なプレスギャングソング。タイン・アンド・ウィアの最も高いカーロックヒルで録音されました。小鳥の囀りとともに始まる彼らの演奏はタイン川やウィア川の石炭運搬船を唄った〈The Keel Row〉に繋がっていきます。
他に〈Four Loom Weaver〉や〈Homeward Bound〉などトラッドが全8曲。数曲でフィドルやマンドリンが付くほかはほぼ弾き語り若しくは無伴奏。『Songs of Ewan MacColl』でのトニー・キャプスティックを想わせる、硬質ながらも親しみのあるジョニーの歌声が印象的な名盤です。
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Various Artists『Beginner's Guide To Country』Nascente, 2012
富山在住の古い友人から教えてもらったジェブ・ロイ・ニコルズが編んだコンピレーション。ジェブ・ロイのコンピと云えばすぐに南部のソウルフルな白人の歌声をあつめた『Country Got Soul Vol.1 & 2』が思い浮かびますが、こちらはカントリーの初心者向けガイド。古くは戦後すぐのロイ・エイカフやマール・トラヴィスから60~70年代のボビー・ジェントリーやグレン・キャンベル、アン・マレーまで、27組のアーティストがキャピトル・レコードに吹き込んだ39曲がほぼ年代順に並べられ、ざっくりとカントリーの歴史の片鱗に触れることができます。基本1組1曲ですが、重要と思われるルーヴィン・ブラザース、ハンク・トンプソン、マール・ハガードなどは複数曲が収録され、ジェブ・ロイによるライナーも充実。同時期にリリースされた『The Jeb Loy Nichols Special』にはスタックスのコンピが付いたデラックス版もあり、併せ聴くとジェブ・ロイの豊潤な音楽のみなもとを辿れます。
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Jeb Loy Nichols & Jennifer Carr『Shadow On The Day』Self-released, 2024
ジェブ・ロイ・ニコルズの新作はセカンドアルバム『Just What Time It Is』からジェブ・ロイのレコーディングに参加しているジェニファー・カーとの共演盤。ジェニファーがピアノを弾き、ジェブ・ロイが唄います。フェロウ・トラヴェラーズ時代の〈Bright Morning Star〉やウェストウッド・オールスターズとの録音が記憶に新しい〈Remember the Season〉など長いキャリアから10曲が採りあげられ再演されています。ジェブ・ロイとジェニファーの他はお馴染みのアンディ・ハミルのベースと、数曲でクロヴィス・フィリップスのギターやノスタルジア77・オクテットのロス・スタンリーが弾くハモンドが付くのみ。2021年に亡くなったもう一人の盟友ウェイン・ヌネスに捧げられた穏やかなアルバムです。
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Martyn Wyndham-Read『Harry the Hawker Is Dead』Argo, 1973
1973年アーゴからリリースされたマーティン・ウィンダム=リードの英国における3枚目のソロアルバムです。ご承知のとおりマーティンはオーストラリア時代にソロアルバム『Australian Songs』(1966)をW&Gレーベルからリリースしているので、トレイラーの2枚のソロ作『Ned Kelly and That Gang』(1970)、『Martyn Wyndham-Read』(1971)に続く本作は通算では4枚目のソロアルバムになります。
バックミュージシャンのクレジットはありませんが、ニック・ジョーンズ(フィドル)、デイヴ・ブランド(バンジョー、コンサティーナ)、ヴィン・ガーバット(ホイッスル)が参加している模様。のちに代表曲〈Valley of Tees〉がマーティンによって唄われるヴィン・ガーバットの参加は貴重です。
タイトル曲の〈Harry the Hawker Is Dead〉はマーティンには欠くことのできないソングライター、マーティン・グレイブの初期の作品。行商のハリー爺さんが亡くなったため針とピンやブーツフックと靴紐など日用品だけでなく笑顔やうたも齎されなくなってしまったとマーティンはアカペラで唄っています。また〈Sailor Home From the Sea〉はオーストラリアのフェミニスト詩人ドロシー・ヒューイットの詩にマーティンが曲を付けたもの。久々に帰ってくる船乗りの夫に書いたラヴソングで、後年『A Rose From the Bush』(1984、別タイトル〈Cock of the North〉で)と『Beneath a Southern Sky』(1997)の2回にわたって再録するほどのお気に入りです。
極めつけはディランも1992年のオーストラリア公演で唄った〈The Female Rambling Sailor〉。もともとはブロードサイド起源のバラッドで、航海に出た恋人を追いかけ男装をして船に乗り込む女性の物語です。唯一残されている口頭伝承はオーストラリアはクイーンズランド州のキャサリン・ピーティが唄ったフィールドレコーディングのみ。マーティンはその夫人の歌唱から学んだとのことです。ディランはカナダのフォークシンガー、イアン・ロブのヴァージョンをお手本にしたようで、マーティンの歌唱に感銘したイアンがオーストラリア・ヴァージョンにある歌詞の欠落を自身で補いフォークレガシーFolk-Legacyに吹き込みました。ディランはイアンの歌詞で唄い、ディランが唄ったヴァージョンのオリジナルが無伴奏のマーティンで聴けることになります。
他にオーストラリア起源の〈Bluey Brink〉や〈Lachlan Tigers〉など全12曲。マーティンのキャリアの中ではあまり話題にならないアルバムですが、このアーゴ盤、滋味あふれる歌声が堪能できる隠れた名盤です。
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