Vinyl and so on
Patakas (Joe & Will Sartin)『When You're Ready』WildGoose Studios, 23 June 2023
パタカスは昨年9月51歳の若さで急逝してしまったポール・サーティンの大学時代のニックネームだとか。そしてウィルとジョーのサーティン兄弟はベロウヘッドや(Dr)フォウスタスなどで活躍し前途有望だったそのフォーク・ミュージシャンの御曹司ふたり。録音とプロデュースを担当したワイルドグース社主のダグ・ベイリーはふたりの祖父と云うから家族ぐるみのトリビュートEPになります。
私たちにはブッシュワッカーズの〈Augathella Station〉で聴き馴染んだ〈Spanish Ladies〉で始まる全6曲は何れも父親ポールのレパートリーだったもの。弟ジョーのギター弾き語りを兄のウィルがマンドリンとコーラスでサポートします。特に〈American Stranger〉はアンドヴァー・ミュージアム・ロフト・シンガーズとフォウスタスとで2度にわたり録音した父のお気に入り。ふたりはフォウスタス同様ポール作曲の〈Princess Waltz〉を繋げ亡き父を偲んでいます。
ご来店の際にリクエストしてください。
The Scrub Jay Orchestra『Postcards Of The Twanging』Ghosts From The Basement (GFTB 7061), 26 July 2023
スクラブ・ジェイ・オーケストラはイアン・A・アンダーソンとマギー・ホランドのホット・ヴァルチャーズに名ギタリストのマーティン・シンプソンが加わった三人組。グループ名義でのレコーディングは無かったものの三人は70年代の終盤にはスクラブ・ジェイ・オーケストラとしてツアーやライヴ活動を行っていたようです。本作はホット・ヴァルチャーズの2nd『East Street Shakes』(1977)と3rd『Up The Line』(1979)からシンプソンがゲスト参加したトラックを集めたEP。〈Pontchartrain〉〈South Coast Bound〉のトラッドのほか、殆ど無名だったタッカー・ツィマーマンの〈Handful Of Rain〉やジミー・ロジャースの〈Hobo Bill's Last Ride〉、マディ・ウォーターズの〈I Can't Be Satisfied〉など、ジャケットどおりの音が聴こえてきます。
アンダーソン、ホランド、シンプソンにピート&クリス・コー夫妻を加えた5人組はイングリッシュ・カントリー・ブルーズ・バンドのプロト版?残念ながら5人の録音は未だリリースされていません。
ご来店の際にリクエストしてください。
Unthank : Smith『Nowhere And Everywhere』Billingham Records, 17 February 2023
ジ・アンサンクスのレイチェル・アンサンクが英国オルタナ・ロック・バンド、マキシモ・パークのポール・スミスと組んだユニットの1作目。フジロック出演バンドのフロントマンとのコラボは少し気になるところですが、冒頭の〈Captain Bover〉はレイチェルがフォーク・シンガーの父親から学んだトラッド曲。ニューカッスル訛りのアカペラで唄われるプレスギャング・ソングはふたりの本気度を窺わせます。
チャイルド・バラッドの〈Lord Bateman〉はクリス・ウッドのヴァージョンを更に自分たちなりにアダプトしたもの。ふたりの淡々とした歌声の遥か彼方に鳴り響くポールのファズ・ギターが壮大なバラッドに不穏な緊張感を湛えています。無伴奏の〈The King〉もトラッド曲。スティーライの2ndアルバムのモチーフになったトゥェルフス・デイに唄われた祭礼歌で、レイチェルはこのうたを聴くと父と行ったグリーサム村のパブを思い出すそうです。他にラル・ウォータソンの〈Red Wine Promises 〉やグレイム・マイルズの〈Horumarye〉のカヴァーも。完璧な選曲です。
レイチェルとポールはともにノース・イースト・イングランドの出身。オリジナル曲もノーサンブリアに伝わるアザラシの妖精セルキー伝説を唄った〈Seven Tears〉や第一次世界大戦で戦死した地元ストックトン出身の兵士についての〈Robert Kay〉など、何れも北東イングランドの歴史と伝統を色濃く反映したもので、自分たちのルーツをしっかりと歌い込んでいます。
既に5年前に録音されたものがこの2月にリリースされ、発売に併せてこの春に行われたツアーでのアンコール曲はリチャード&リンダ・トンプソンの〈I Want to See the Bright Lights Tonight〉だったそうです。思わぬ拾い物をしました。
ご来店の際にリクエストしてください。
The Magpie Arc『Glamour In The Grey』Collective/Perspective, 2022
マーティン・シンプソンとナンシー・カーのエレクトリック・トラッド・バンド、マグパイ・アークの新作です。ロイヤルメールのストやハッキング騒動で遅れに遅れやっと手にすることができました。前作が10インチ3部作だったので本作は2ndにして初めてのフルアルバム。もう一人のシンガーがアダム・ホームズからやはりスコットランドのSSW フィンドレイ・ネイピア(あの『The Ledger』のひとりです。)に替わっています。
アルバムはナンシーがマディ・プライアに書いた〈All I Planted〉で始まりますが、エレクトリック・バンドとしてパワー全開。マーティンのギターがスリリングな〈Wassail〉はトンプソン在籍時のフェアポートやクリサリス期のスティーライを想わせ、ご愛嬌でしょうか、ネイピアの英国ボクサーへのオマージュ〈Tough as Teddy Gardner〉はスモーク・オン・ザ・ウォーターのリフで唄われるほどです。
が、へディ・ウェストで知られるアメリカン・トラッド〈Pans of Biscuits〉やマイク・ウォータスンが70年代の初めに作った〈Jack Frost〉でのマーティンの歌声にも耳を傾けてください。マグパイ・アークがただのパワーだけのバンドでないのが分かります。
ご来店の際にリクエストしてください。
Ralph E. White『It's More In My Body Than In My Mind』Worried Songs, May 29, 2022
Ralph E. White『Something About Dreaming』Worried Songs, August 26, 2022
パンチ・ブラザースの例を持ち出すまでもなく、ビル・モンローの古からブルーグラスはいつもプログレッシブでした。ラルフ・ホワイトは90年代にオースティンに現れたパンキッシュなブルーグラス・バンド、バッド・リヴァーズのフィドル奏者。バンド脱退後にはマイケル・ハーレーのツアーにも同行し、ソロ活動の傍らエイミー・アネルと組んだプレシャス・ブラッドはトラモナでも注目のデュオでした。
そんなラルフが昨年リリースした2枚のアルバムはコロナ禍前の2020年3月オースティンにあるドン・セント所有のスタジオ、セントーンでジェリー・デイヴィッド・デシッカのプロデュースにより2日間で録られています。全篇バンジョー、エレクトリック・ギター、ボタン・アコーディオン、フィドル、カリンバによる弾き語り。なかでもカリンバで唄われるマール・ハガードの〈Lonesome Fugitive〉は絶品。オーセンティックでありながらもアヴァンギャルドなラルフならではの世界が堪能できます。
なおプロデューサーのジェリー・デイヴィッド・デシッカはジェブ・ロイ・ニコルズのアメリカの友人。ラリー・ジョン・ウィルソンやウィル・ビーリーの復活作も手掛けていますが、近々には遺作になってしまったボブ・マーティンの最新作もWorried Songsから予定されています。
ご来店の際にリクエストしてください。