Vinyl and so on

Jeb Loy Nichols & Jennifer Carr『Shadow On The Day』Self-released, 2024
ジェブ・ロイ・ニコルズの新作はセカンドアルバム『Just What Time It Is』からジェブ・ロイのレコーディングに参加しているジェニファー・カーとの共演盤。ジェニファーがピアノを弾き、ジェブ・ロイが唄います。二人で共作したタイトル曲〈Shadow On The Day〉など新曲4曲に加え、フェロウ・トラヴェラーズ時代の〈Bright Morning Star〉やウェストウッド・オールスターズとの録音が記憶に新しい〈Remember the Season〉など長いキャリアから6曲が採りあげられ再演されています。ジェブ・ロイとジェニファーの他はお馴染みのアンディ・ハミルのベースと、数曲でクロヴィス・フィリップスのギターやノスタルジア77・オクテットのロス・スタンリーが弾くハモンドが付くのみ。2021年に亡くなったもう一人の盟友ウェイン・ヌネスに捧げられた穏やかなアルバムです。
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Martyn Wyndham-Read『Harry the Hawker Is Dead』Argo, 1973
1973年アーゴからリリースされたマーティン・ウィンダム=リードの英国における3枚目のソロアルバムです。ご承知のとおりマーティンはオーストラリア時代にソロアルバム『Australian Songs』(1966)をW&Gレーベルからリリースしているので、トレイラーの2枚のソロ作『Ned Kelly and That Gang』(1970)、『Martyn Wyndham-Read』(1971)に続く本作は通算では4枚目のソロアルバムになります。
バックミュージシャンのクレジットはありませんが、ニック・ジョーンズ(フィドル)、デイヴ・ブランド(バンジョー、コンサティーナ)、ヴィン・ガーバット(ホイッスル)が参加している模様。のちに代表曲〈Valley of Tees〉がマーティンによって唄われるヴィン・ガーバットの参加は貴重です。
タイトル曲の〈Harry the Hawker Is Dead〉はマーティンには欠くことのできないソングライター、マーティン・グレイブの初期の作品。行商のハリー爺さんが亡くなったため針とピンやブーツフックと靴紐など日用品だけでなく笑顔やうたも齎されなくなってしまったとマーティンはアカペラで唄っています。また〈Sailor Home From the Sea〉はオーストラリアのフェミニスト詩人ドロシー・ヒューイットの詩にマーティンが曲を付けたもの。久々に帰ってくる船乗りの夫に書いたラヴソングで、後年『A Rose From the Bush』(1984、別タイトル〈Cock of the North〉で)と『Beneath a Southern Sky』(1997)の2回にわたって再録するほどのお気に入りです。
極めつけはディランも1992年のオーストラリア公演で唄った〈The Female Rambling Sailor〉。もともとはブロードサイド起源のバラッドで、航海に出た恋人を追いかけ男装をして船に乗り込む女性の物語です。唯一残されている口頭伝承はオーストラリアはクイーンズランド州のキャサリン・ピーティが唄ったフィールドレコーディングのみ。マーティンはその夫人の歌唱から学んだとのことです。ディランはカナダのフォークシンガー、イアン・ロブのヴァージョンをお手本にしたようで、マーティンの歌唱に感銘したイアンがオーストラリア・ヴァージョンにある歌詞の欠落を自身で補いフォークレガシーFolk-Legacyに吹き込みました。ディランはイアンの歌詞で唄い、ディランが唄ったヴァージョンのオリジナルが無伴奏のマーティンで聴けることになります。
他にオーストラリア起源の〈Bluey Brink〉や〈Lachlan Tigers〉など全12曲。マーティンのキャリアの中ではあまり話題にならないアルバムですが、このアーゴ盤、滋味あふれる歌声が堪能できる隠れた名盤です。
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Cyril Tawney, Matt McGinn, Johnny Handle, Alasdair Clayre『A Cold Wind Blows - Songs in traditional styles composed and sung by』Elektra, 1966
1965年ディランのニューポートに立ち会ったジョー・ボイドは再度イギリスを訪れ、ご承知のとおりピンク・フロイドのデビューシングルをプロデュースしたり、フェアポート・コンヴェンションやニック・ドレイク、インクレディブル・ストリング・バンドなど英国のロック史には欠くことのできないミュージシャンを数多く見い出します。本作はそのボイドがエレクトラのためにエリック・クラプトンやスティーヴ・ウィンウッド、ジャック・ブルースらを集めたパワーハウス・セッションのリハーサルとレコーディングの合間に録った初プロデュース作品です。
副題にあるようにトラッドのスタイルで曲作りをし唄う4人のフォーク・シンガー、シリル・タウニー、マット・マッギン、ジョニー・ハンドル、 アラスデア・クレアの歌声を収録したアンソロジーで、録音は1966年1月にエジンバラ(マッギン)、ニューカッスル(ハンドル)、ロンドン(クレア)の3箇所で行われ、シリル・タウニーだけ4月のロンドンで録られています。
ボイド自身は個人的なお気に入りとしてジョニー・ハンドルの〈Because It Wouldn't Pay〉をコンピレーション『ジョー・ボイドの仕事』に収録していますが、圧倒的に素晴らしいのがシリル・タウニーの無伴奏で唄われる〈Five Foot Flirt〉〈On a Monday Morning〉〈Sammy's Bar〉〈The Oggie Man〉の4曲。どの曲も後に様々のシンガーにカヴァーされていますが、なかでも月曜の朝の憂鬱を唄った〈On a Monday Morning〉は古くはピーター・ベラミーやマーティン・カーシー、ルイス・キレン、ニック・ジョーンズなどに唄われ、数多くの名唱を生んでいます。ジョニー・ハンドルのハイ・レベル・ランターズはもう一人のシンガー、トム・ギルフェロンがノーサンブリアン・パイプのドローンをバックに唄い、レイチェルとベッキーのアンサンク姉妹はピアノの伴奏で唄っていました。最近では昨年のベストアルバムの誉れの高いランカムの『False Lankum』でも唄われていたのが記憶に新しいところです。そんな誰からも愛された名曲の初出が聴けるのもこのアルバムの魅力ではないでしょうか。
ちなみにアラスデア・クレアのセッションではペギー・シーガーがバンジョーやダルシマーなどでサポートし、うち1曲にはマーティン・カーシーもギターで参加しています。またジャケットの写真はボイドとUFOクラブを一緒に立ち上げたジョン・ホプキンスが担当しています。
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Bryony Griffith & Alice Jones『A Year Too Late and a Month Too Soon - Songs from Yorkshire』(Splid Records, 2022)
ブライオニー・グリフィスはかつてフェイ・ヒールドらと無伴奏コーラス・グループのザ・ウィッチズ・オブ・エルスウィックを組んだり、ディーモン・バーバーズというかなりカッコ良いエレクトリック・トラッド・バンドでフィドルを弾き唄っていました。アシュリー・ハッチングスの『Great Grandson of Morris On』にも参加していたのでご存じの方もいらっしゃるのでは。かたやアリス・ジョーンズもピート・コーの諸作に参加し、2014年のフランク・キッドソンを唄ったデュオ名義の『The Search for Five Finger Frank』は今も高く評価されています。またソロ作『Poor Strange Girl』もある知る人ぞ知るフォーク・ミュージシャンです。
二人ともヨークシャーの出身で、本作はパンデミックのなかキッドソンなど地元の収集家のコレクションや出版物、ヨークシャーの先達による音源など地元の伝統を深く掘り下げ、録音したヨークシャーのトラッド集。プロデュースはジョー・ラスビー。ブライオニーのフィドルとアリスのハーモニウム若しくはテナー・ギターのみで唄われ、ふたりの歌声が主役のシンプルなアルバムは、往年のトピックやトレイラーの名盤を想わせます。
そのトピック盤ではフランク・ヒンクリフの『In Sheffield Park』から〈Edward 〉が〈What Is That Blood on Thy Shirt Sleeve?〉として、ハリー・ボードマンとデイヴ・ヒラリーの『Trans Pennine』からデイヴの〈Nellie o' Bob's o' t' Crowtrees〉が唄われているのが嬉しいところ。またウォータースンズの『A Yorkshire Garland』からは〈Strawberry Tower〉と〈Willy Went To Westerdale〉がノース・ヨークシャーの農民でシンガーのジョン・グリーヴズから習ったヴァージョンで唄われています。
かつてオールド・スワン・バンドと肩を並べたイングリッシュ・カントリー・ダンス・バンド、ラムズ・ボトムのメンバーだったキース・ケンドリックは、リヴィング・トラディション誌のディスク・レヴューで今年のベストどころかここ10年でも指折りのアルバムと絶賛しています。必聴です。
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『The Alialujah Choir』はオレゴン州ポートランドのフォーク・トリオ、アリアルーヤ・クワイアの1stアルバム。2008年ポートランド最古のローン・ファー・セメタリーに寄せたベネフィット・アルバムで別のバンドで活動していたアダム・セルツァー(ノーフォーク&ウェスタン)とアダム・シアラー(ウェインランド)の二人のアダムが共演したことがアリアルーヤ・クワイアの振出しになりました。さらに同じくウェインランドのアリア・ファーラをピアノとヴォーカルに誘ってバンドは出来上がりますが、その時バンド名をハレルヤ・クワイア(Hallelujah Choir)をもじってAlialujah Choirとするのがアリア参加の条件だったとか。2本のギターとピアノのアコースティカルな演奏をバックに唄われる息の合ったハーモニー・ワークが女声を含むコーラスながらCS&Nを想わせ魅力的です。
録音はセルツァーが1998年に開設した録音スタジオ、タイプ・ファウンドリー。セルツァーはじめ、レイチェル・ブラムバーグ、ピーター・プロデェリックなどノーフォーク&ウェスタンのメンバーによる卓越したスタジオ・ワークでポートランドのミュージック・シーンの中心的存在となったのはウッドストックのベアズヴィル・スタジオと似ています。残念ながらこの2月(2020)に22年間の歴史に幕を下ろしてしまいましたが、ノーフォーク&ウェスタンの諸作やM・ウォード『Duet For Guitars #2』、ローラ・ギブソン『If You Come To Greet Me』など数多くの名盤がここで録音されました。もちろん本作もそのリストに名を連ねる名盤です。
その後バンドはドラムス、ベースなどサポート・メンバーを加え、2015年に2ndアルバム『Big Picture Show』をリリース。現在は活動していないようですが、この11月に配信リリースされたアダム・セルツァーのソロ作『Slow Decay』ではアリア・ファーラがコーラスで息の合ったハーモニーを聴かせ今後の展開に期待できそうです。なお、CDリリース時にJealous Butcher RecordsのSeries33で33枚だけ限定プレスされたアナログ盤が今回コレクションできました。ちなみにシリアル番号は17/33です。
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