Vinyl and so on
Nick Hart & Tom Moore『The Colour of Amber』Slow Worm Records, 22 November 2023
昨年リリースされたニック・ハートの最新作が届きました。『Nick Hart Sings Eight English Folk Songs』を振出しに『Nine』『Ten』と続いたシングス・イングリッシュ・フォークソング・シリーズは小休止。1枚目からずっとニックをサポートをしてきたMoore Moss Rutterのトム・ムーアとの共演盤です。今回はお馴染みのギター弾き語りは封印し、自身の弾くヴィオラ・ダ・ガンバとトムのヴィオラ、そして後からダビングされたハーモニウムのドローンで唄っています。
クラシカルな演奏にのせて唄われるのはジョン・カークパトリックがブラスモンキーで唄った〈The Jolly Bold Robber〉やマーティン・カーシーの〈Three Jolly Sneaksmen〉などトラッドが6曲。いずれもゆったりとしたテンポで唄われ、穏やかな歌声には温かみが溢れています。最後の〈Bold Riley〉は『A Sailor’s Garland』におけるA・L・ロイドの歌唱が初出のシーシャンティ。元ラムズ・ボトムのキース・ケンドリックに多くを負っているとライナーには記されていますが、むしろケイト・ラスビーのヴァージョンを想いおこす方が多いのでは。揚帆作業で唄われるハリヤードをニックはテンポを落とし、まるでエレジーのように唄っています。
またトムのヴィオラをフューチャーしたインスト4曲も素晴らしく、〈Swaggering Boney〉〈Constant Billy〉など モリス・チューンやジョン・プレイフォードのダンシング・マスターから〈The Child Grove〉のカントリー・ダンス・チューンが、ヴィオラとヴィオラ・ダ・ガンバのイナたくも優雅な演奏で堪能できます。そして〈Flowers of Edinburgh〉はプラントライフの名アンソロジー『English Melodeon Players』(1986)からトニー・ホールの演奏をお手本にしたもの。母親の胎内にいるときからトニーのメロディオンを聴かされていたトムにとってトニーの音楽は今でも根強いお気に入りだとか。唄も演奏も良し。鮮やかさが際立った、昨年聴いた中でも指折りのアルバムです。
ちなみに『English Melodeon Players』にはトニー・ホールのほかロッド・ストラドリング、ロジャー・ワトソン、デイヴ・ロバーツなどの素晴らしい演奏が収められていますが、同レーベルには『English Fiddle Players』と云うアルバムもあり、どちらも必聴です。
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Eliza Carthy & Jon Boden『Glad Christmas Comes』Hudson Records, 1 December 2023
イライザ・カーシーとジョン・ボーデンの新作クリスマスアルバムがやっと届きました。真っ先に針を落としたのがポーグスの〈Fairytale Of New York〉。イライザのフィドルとジョンのコンサティーナで唄われ、前奏や間奏ではユアン・ウォードロップによるモリスダンスがフィーチャーされています。そのザックザックと地を這うようなジグのリズムがこの11月に亡くなったシェイン・マガウアンの魂を鎮めるかのように響き、いかにもイングランドのふたりらしいアレンジで今となってはもう聴けないマガウアン&マッコールを唄いきっています。今年唄われるべくして唄われたクリスマスソングではないでしょうか。
他に生前のノーマ・ウォータソンに収録を薦められたジーン・リッチーの7分に及ぶ〈Wintergrace 〉やエミリー・ポートマンとティム・ヴァン・エイケンのコーラスが素晴らしい〈Beautiful Star〉と〈Remember O Thou Man〉、ヨークシャーのバックステージ・ブラスがニューオリンズの雰囲気を醸す〈I Want a Hippopotamus for Christmas〉など聴きどころ満載のクリスマスアルバムです。
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【Christmas Albums】
Jeb Loy Nichols『Going to the Pub (On Christmas Eve)/Very Little Christmas』2023
ジェブ・ロイ・ニコルズがクリスマスソングを配信のみでリリースしました。1曲目はイアン・ゴムと共作した〈Going to the Pub (On Christmas Eve) 〉。イアン・ゴムとのコラボと云えば2010年の『Only Time Will Tell』を思い起こしますが、これは新録。エドワードIIのリース・ウェッソンの弾くアコーディオンを除き、ギター、ベース、キーボード、ドラムと全てクロヴィス・フィリップスが担当し、ジェブとイアンをバックアップしています。録音はクロヴィスのアッド・ア・バンド・スタジオで行われ、2曲目の〈Very Little Christmas〉はクロヴィスとの共演。どちらもジェブ・ロイらしいカントリー・ソウルなクリスマスソングです。
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Various Artists『Imaginational Anthem vol. XII : I Thought I Told You - A Yorkshire Tribute to Michael Chapman』 Tompkins Square, 2023
トンプキンス・スクエアのイマジネイショナル・アンセムももう第12弾。今回は2021年に亡くなったリーズ出身のSSWでギター・ヴァーチュオーゾとしても知られるマイケル・チャップマンのトリビュートです。デビュー作『Silent Spring』が素晴らしかったヘンリー・パーカーがキュレーターを務め、地元ヨークシャーの若手ミュージシャンに声をかけて同郷のギター・ヒーローを讃えています。弾き語りからエクスペリメンタルな作品まで様々なアプローチが可能なのはチャップマンの懐の深さでしょう。ヘンリー・パーカー〈In the ValleyKatie〉、ケイティ・スペンサー〈You Say〉、クリス・ブレイン(wow!!)〈Among the Trees)が良い。
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Bryony Griffith & Alice Jones『Wesselbobs - Winter Songs and Tunes From Yorkshire』Selwyn Records, 1 November 2023
一聴して耳に残るのは〈The Yorkshire Wassailing Song〉。ウォータソンズやアルビオン・バンド、ジョン・カークパトリックで聴き馴染んだ〈Here We Come A-Wassailing〉と同じワッセイルソングです。ワッセイルとは「健やかであれかし」という意味のアングロ・サクソン語。かつて英国全土の村々ではクリスマスから新年にかけて若者たちが来るべき年が良い年であるようワッセイルソングで言祝ぎ、家々の戸口でビールやアップル酒のご相伴に預かるという習慣があったようで、アルバムタイトルの「ウェッセルボブズ」はその時ワッセイラーズが持っていた常緑樹の枝で作った環のことだそうです。
昨年リリースした『A Year Too Late and a Month Too Soon』がここ10年の傑作とまで評価の高かったブライオニー・グリフィスとアリス・ジョーンズの新作です。今回もハリー・ボードマンとデイヴ・ヒラリーが70年代の初めにトピックに残した『Trans Pennine』から〈Early Pearly〉が唄われ、他にもビル・モンローの〈Footprints In The Snow〉のヨークシャー・ヴァージョンなど古くからヨークシャーに伝わるクリスマスソングやワッセイルソングの数々がブライオニーのフィドルとアリスのハーモニュームやテナー・ギターの伴奏で静かに唄われています。
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