Vinyl and so on

arrival
2022-03-20 17:21:09
『The Poor Shall Wear the Crown』『Yonder Green Grove』『A Lancashire Grace』
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英国のトラッドやフォークはまだまだCDが主流のようで良いものにCDが多いようです。最近届いた新作をご紹介します。

01. Nancy Kerr『The Poor Shall Wear the Crown – Songs by Leon Rosselson』(Little Dish Records, 2021)

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ナンシー・カーの新作はコロナ禍の20年5月毎日レオン・ロッセルソンの楽曲を唄って動画を投稿するというプロジェクトのCD化。ネットには33曲がアップされていますが、CDにはシェフィールドのスタジオでマグパイ・アークのトム・A・ライトによって録り直された12曲が収録されています。全曲ギター、フィドル、ビオラ、ピアノの弾き語りで、〈Why Does It Have to Be Me?〉でのみ息子さんのハリー君とのデュエットが聴けます。ロッセルソンは勿論のこと、サンドラ・カー、フランキー・アームストロング、故ロイ・ベイリーに捧げられています。

 

02. The Norfolk Broads『Yonder Green Grove』(Self Released, 2021)

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ハリー・コックスやサム・ラーナー、更にはピーター・ベラミーを輩出した英国のノーフォークはトラディショナル・ミュージックの宝庫。そのノーフォークをグループ名に冠したノーフォーク・ブローズはロンドンのトラッド・アカデミー・シー・シャンティ・クワイアの女性メンバー4人で結成された無伴奏コーラスのグループです。特に出身などノーフォークとの直接的な関係はなかったようですが、この2ndアルバムにしてやっとノーフォークでの録音が実現しました。全曲トラッド。なかでも〈Fear a Bhata〉はフェアポート加入前のサンディ・デニーも唄っていたスコッツ・ゲーリック・ソング。サンディ同様リフレインをゲール語で唄っています。アルバムは基本アカペラですが、数曲で聴けるニック・ハートのギターとトム・ムーアのフィドルなどによる抑制の効いたバックアップも聴き逃せません。

 

03. The Oldham Tinkers『A Lancashire Grace』(Limefield Records, 2021)

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トピック・レコードの80周年記念アルバム『Vision & Revision』における〈Dirty Old Town〉が素晴らしかったオールダム・ティンカーズ。この企画だけのものと思っていたら42年振りの新作がリリースされました。メンバーのうちジェリー・カーンズ(唄、ギター)とジョン・ハワース(唄、バンジョーほか)の二人は健在ですが、ラリー・カーンズが2016年に73歳で亡くなってしまいました。その後継に加入したマンドリンのデイヴ・ハワードは元々レコーディング・エンジニアで、本作もランカシャーのバリーにある所有のスタジオでデイヴによって録音されています。スペイン内戦で国際旅団としてオールダムから参戦した10名を唄った〈Ten Oldham Men (No Pasaran)〉を始め、自作曲の〈Alphin〉やランカシャーの詩人エドウィン・ウォーの詩に曲を付けた〈Cradle Song〉など13曲を気負うことなく平明に唄うのはこれまで通り。『For Old Time's Sake』同様”枯淡なペーソス”が湧き上がる名作です。

 

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2021-11-19 21:56:50
『Hourglass』『Still As Your Sleeping』『Fallow Ground』
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いつも良質の音楽を届けてくれる大分のCD通販ショップ、タムボリンさん。久々の通販リストから購入した新譜です。

 

Murray McLauchlan / Hourglass(True North Records, 2021)

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76年の来日公演に前後してロック・バンドを結成し私たちの聴きたい音から少しずつ離れていったマレー・マクロクラン、久々のコレクションです。ペダル・スティールを中心とした抑制の効いたバンド演奏が齢を重ね幾分渋みを増した歌声を際立て穏やかに響きます。そしてパンデミックの中で書かれた唄の数々は、ミネアポリスのジョージ・フロイドに捧げられた〈I Live On A White Cloud (For George Floyd)〉や地中海で溺死した3歳のシリア難民、アラン・クルディについて唄った〈Lying By The Sea (For Alan Kurdi)〉などメッセージ性の強いものばかり。声高に唄われるだけがプロテスト・ソングのすべてではないと云う証しでしょう。

 

Karine Polwart & Dave Milligan / Still As Your Sleeping(Hudson Records, 2021)

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先の『Karine Polwart's Scottish Songbook』はカリンらしい選曲の好盤でした。その前作から早2年、コロナ禍でのカリン・ポルワートの新作はご近所のジャズ・ピアニスト、デイヴ・ミリガンと二人だけのアルバム。〈Craigie Hill〉〈The Parting Glass 〉などトラッドや自作曲のほか、リチャード・ファリーニャの〈The Quiet Joys of Brotherhood〉やケイト・マクギャリグルの〈Talk to Me of Mendocino〉も唄われていますが、ひとつの歌声とひとつのピアノが穏やかに共鳴し、唯一無二の世界を作っています。抗いようのない傑作です。

 

Spiers & Boden / Fallow Ground(Hudson Records, 2021)

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前作の『Vagabond』から13年、結成10周年を記念してリリースされた企画ものの『The Works』からでも10年。やっとSpiers & Bodenが帰ってきました。ベロウヘッドの諸作やソロ作も良いのですが、やはりこの二人はメローディオンとフィドルの二人だけのフォーマットがいちばん。最高です。トレヴァー・ルーカスも唄っていたオーストラリアのトラッド〈Bluey Brink〉で始まるアルバムは唄もの6曲、インスト7曲の全13曲。極めつけはかつてアーチー・フィッシャーやレイ・フィッシャーも取り上げていたグレアム・マイルズの〈Yonder Banks〉。渋すぎる選曲には脱帽です。

 

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2021-10-22 11:40:02
Nick Hart『Nick Hart Sings Nine English Folk Songs』(2019)
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Nick Hart / Nick Hart Sings Nine English Folk Songs(Roebuck Records, 2019)

 

もう直ぐ3rdアルバムがリリースされるニック・ハートは、ロンドンを拠点に活躍するニック・ジョーンズ・タイプのフォーク・シンガー。遅ればせながら2019年にリリースされた2ndアルバムを聴いてみたところ、これが頗る素晴らしい。今年出会ったトラッド・シンガーの中でも1、2を争う逸材ではないでしょうか。いかにもイングランドらしい端正なトラッド・シンギングがデイヴ・バーランドやマーティン・ウィンダム・リードなどのリヴァイヴァリストたちを想わせ、すっかり魅了されてしまいました。『Nick Hart Sings Eight English Folk Songs』と題された1stも2017年にリリースされていますが、CDは既にソールド・アウト。已む無くデータ配信の音源を聴いている次第です。

 

ケンブリッジシャーのモリス・ダンサーの一家に生まれたニックは、幼い頃よく父親のメローディオン・ケースの上に座って過ごし、初めは関心の無かったイングリッシュ・ダンス・ミュージックにも成長するとともに興味が湧き、メローディオンをマスターするまでに至ったとのこと。現在ではソロ活動の傍らトム・ムーアやジョン・ディッパーなど仲間たちとケイリー・バンドを組み、メローディオン奏者兼コーラーとしても活躍しています。

 

さて、『Nick Hart Sings Nine English Folk Songs』ですが、タイトルどおりニックがイングランドは主に出身地のイースト・アングリアに伝わるトラッド9曲をギターで弾き語っています。元々無伴奏のシンギングからスタートしたニックのつま弾くギターはいたってシンプル。もちろんシンプルと云ってもテクニック的に簡単という意味ではなく、必要最小限に削ぎ落されたギターの音色が滋味溢れるニックの歌声との間にある種の緊張感を生み、バラッドの持つ物語性にリアリティを与えています。淡々と唄われているにもかかわらず、あたかも映画のワン・シーンを見るかのようにドラマチックに響くのはそのせいでしょう。特にノーフォークのウォルター・パードンの歌唱をお手本にした〈A Ship to Old England Came〉はナポレオン戦争期の海戦を生き延びたキャビン・ボーイについて唄ったバラッドで、ピーター・ベラミーやマーティン・カーシーなどベテランのシンガーにも取り上げられていますが、ニックのシンギングはどの先達のものよりも抜きんでているように思われます。

 

プロデュースはトム・ムーア。シェフィールドを拠点に活躍するムーア・モス・ラター(Moore Moss Rutter)のメンバーで、今日のイングランドを代表する名フィドラーの内の一人です。本作でも数曲でヴィオラを弾いてニックの歌声に華を添えています。また、〈ロード・ランダル〉としてよく知られる〈John Riley〉ではドミニー・フーパーとの素晴らしいデュエットも聴け、11月の3rdアルバム『Nick Hart Sings Ten English Folk Songs』のリリースも待ちどおしい傑作2ndです。

 

Tracks (カッコ内の人名はライナーにクレジットされたソース・シンガー)

01. The Rakish Young Fellow (Tradtional, Walter Pardon)

02. Bold Keeper (Tradtional, Harry and Danny Brazil)

03. Georgie (Tradtional, Mary Humphrey)

04. The Molecatcher (Tradtional, Peter Bellamy)

05. The Lakes of Cold Finn (Tradtional, George Ling)

06. A Ship to Old England Came (Tradtional, Walter Pardon)

07. John Riley (Tradtional)

08. Riding Down to Portsmouth (Tradtional, Mary Ann Haynes)

09. The Two Sisters (Tradtional, Danny Brazil)

 

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2021-08-15 13:44:34
Cold Diamond & Mink『From Us To You... With Love』(2021)
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Cold Diamond & Mink『From Us To You... With Love』(2021)

ジェブ・ロイ・ニコルズとコールド・ダイアモンド&ミンクとの組み合わせによるジェブ・ロイの新作『Jeb Loy』は、ソウル・ミュージックへの揺るぎないリスペクトを持つ2組のミュージシャンたちが出会うべくして出会い生まれた傑作でした。近年心あるソウル・ファンの衆目を集めるフィンランドのレーベル、ティミオン・レコーズのハウス・バンド、コールド・ダイアモンド&ミンクの2ndは『Jeb Loy』のインスト集。ジェブ・ロイの歌声で聴き馴染んだメロディが『Jeb Loy』と同じ順で並び、ユッカ・サラッパ(Drums)とサミ・カンテリネン(Bass)の鉄壁のリズム・セクションをバックにセッポ・サルミのギターが自在に唄います。

 

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2021-03-09 15:50:53
Tony Rose / Poor Fellows(Dingle's, 1982)
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買い逃していたトニー・ローズの4枚目がやっとコレクションできました。トニー・ローズは1970年代から活躍したイングランドのリヴァイヴァリスト。2002年に癌で亡くなるまで4枚のアナログ・レコードと1枚のCDを残し、没後ライヴCDが1枚、遺族によってリリースされています。そして1978年にニック・ジョーンズやピート&クリス・コーと組んだBandoggsはフォークのスーパーグループと云われ、「円熟期の英国トラッド・フォークが到達した一つの理想郷」と評されています。本作はそのバンドックスの活動を挟んで前作から6年ぶりにリリースされた1982年のソロ・アルバムです。

 

これまでトラッド中心に唄ってきたトニーですが、このアルバムでは〈Bonny Light Horseman〉や〈Dark-Eyed Sailor〉などよく知られたビッグ・バラッドに混じってR・トンプスン作〈Down Where the Drunkards Roll〉のような同時代の作家による楽曲がアルバムの半数5曲で取り上げられています。なかでも極めつけはディランの〈Boots of Spanish Leather〉です。

 

1962年の暮れから63年初頭にかけてBBC放送の仕事で渡英したボブ・ディランはロンドンのフォーク・クラブで地元のフォーク・ミュージシャンと親交を深めました。その折、ディランがマーティン・カーシーから教わったトラッド〈Scarborough Fair〉を下敷きに〈Girl from the North Country〉とこの〈Boots of Spanish Leather〉を作ったのは有名な話です。本作でトニーはイングリッシュ・コンサティーナでこの曲を朗々と弾き語っていますが、その歌声に感銘を受けたニック・ジョーンズが自らも〈Boots of Spanish Leather〉を唄い始めたのはあまり知られていません。因みに幾分テンポを落とし、トラッド色を際立たせたニックのヴァージョンはCD『Unearthed』で聴くことができます。

 

反対にニックからトニーへと辿ったのはピーター・ベラミーの〈Us Poor Fellows〉。ベラミーの1977年の代表作、バラッド・オペラの『The Transports』の中で主人公の父親役としてニック・ジョーンズが唄った楽曲ですが、バンドックスのセッションを通してニックから習ったのでしょうか、トニーは本作にカヴァーを収録し、アルバムのタイトルにするほどの入れ込みようです。

 

他にブラウンズの1959年のヒット曲〈The Three Bells〉やポール・ウィルソンの〈Bampton Fair〉も。数曲で聴けるパイワケットのイアン・ブレイクが弾くベースやシンセが時代を感じさせますが、基本的にはギターとコンサティーナの弾き語りアルバムで、ベテラン・リヴァイヴァリストの落ち着いた歌声が味わい深い名盤です。

 

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Tracks

Side 1

01. The Yarmouth Tragedy

02. The Bonny Light Horseman

03. Clerk Saunders

04. Down Where the Drunkards Roll

05. The Three Bells (Jimmy Brown)

Side 2

01. The Recruiting Sergeant (Arthur McBride)

02. Boots of Spanish Leather

03. Us Poor Fellows

04. Tom the Barber

05. The Dark-Eyed Sailor

06. Bampton Fair

 

Musicians

Tony Rose: vocals, guitar, English concertina

Ian Blake: bass, synthesiser, bass clarinet, recorders

Mark Emerson: fiddle

Alison and Martin Bloomer, Sean O'Shea, Barry Lister: harmony vocals

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