Vinyl and so on

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2022-10-28 17:50:23
Derek Piotr『The Devil Knows How』
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Derek Piotr『The Devil Knows How』DPSR, Gourd Recordings, 2022

 

昨年から今年頭にかけてロンドンのDeath Is Not The Endから『Last Wisps of the Old Ways: North Carolina Mountain Singing』と『Ever Since We've Known It: More North Carolina Mountain Singing』の2枚のノースカロライナのマウンテン・ソング集がリリースされました。監修をしたのは米国のミュージシャンで民俗学者のデレク・ピョートル。

 

これまでクラシック音楽や電子音楽にインスパイアされた作品が多かったデレクですが、2019年頃からアパラチアの民俗音楽に傾倒し、米国議会図書館の棚から1939年にハーバート・ハルパートによって行われたノースカロライナ州エルク・パークに住むリーナ・ベア・タービーフィル夫人と彼女の一族ベア・ファミリーの録音を発見します。その音源に自身で行った存命中のタービーフィル夫人の娘ニコラ・プリチャードのフィールド・レコーディングなどを加えてキュレートしたのが先の2枚のコンピレーション。特に後者の『Ever Since We've Known It』は「もう一人のテキサス・グラッデン」ともいわれるリーナ・ベア・タービーフィルに焦点をあてたアルバムで、タービーフィル夫人はThe Old-Time Herald誌の表紙を飾り特集も組まれベア・ファミリーの歌声は高く評価されています。7月には3枚目の『Come, Let Us Sing』もリリースされベア・ファミリーの三部作は完結したようです。

 

さて『The Devil Knows How』です。エクスペリメンタルな作品を得意とするデレクですが、今回はベア・ファミリーの録音に刺激されアパラチアの伝統音楽に真摯に向き合っています。タービーフィル夫人を始め、テキサス・グラッデン、フランク・プロフィットなど先達の歌唱をお手本にチャイルド・バラッドやローカルなマーダーソングを抑制の効いたギターやペダル・スティールをバックに溌溂と唄っています。

 

全10曲中8曲がトラッドで、自作曲は〈Yes, They All Sing〉と〈They'd Sing Old Songs, and They'd Sing the New Ones〉の2曲。どちらもタービーフィル夫人若しくは娘の二コラのインタビューにギターとペダル・スティールの演奏を被せたインストで、ここら辺りにデレク特有のエクスペリメンタル感が醸されています。タイトルのTheyはベア・ファミリーを指し、家族の中で歌の伝統がどのように継承されたかが語られ、2曲のインストによって母と娘が紐付けられます。

 

トラッドでは〈George Collins〉が白眉。かつてシャーリー・コリンズも唄ったチャイルド・バラッドですが、デレクはそのノースカロライナ・ヴァージョンをタービーフィル夫人の歌唱をお手本にハーディーガーディの演奏にのせて切々と唄っています。また最後の〈Lee Mills〉はオザーク郡のバリー&クレメンタイン・サターフィールド夫妻の歌唱に倣ったもの。いつもフィールド・レコーディングに使うズームH4nで録音し、ノン・ミックス、ノン・エディットのまま収録されたデレクの無伴奏歌唱がフィールド・レコーディングのザラッとした手触りを演出してアルバムを締め括っています。

 

本作を契機に活動拠点をニューヨークからノースカロライナに移したとのこと。日常生活の中で継承される歌の伝統に対するデレクのリスペクトがひしひしと伝わる名盤です。

 

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2022-10-16 17:32:23
Milkweed『Myths and Legends of Wales』
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Milkweed『Myths and Legends of Wales』cassette(Devil Town Tapes, 2022)

 

フィジカルのリリースはカセットのみでしたが、Tradfolkのジョン・ウィルクスが推していたので購入してみました。

 

ミルクウィードについては詳しいことは殆ど分からず、英国の何処かでナロウボートで生活する男女のフォーク・デュオのようです。キングストントリオの1stを流用したちょっと不気味なジャケットの『Milkweed Sings Carols』に続く第2作目で、ボート上で録られ、小鳥の囀りや列車の通過音などもそのまま効果的に使われています。

 

『Myths and Legends of Wales』には、ハートフォードシャーのチャリティー・ショップで手に入れたトニー・ロバーツの同名の書籍にインスパイアされた自作曲が全8曲収録され、歌詞のすべてがロバーツ作の引用なのか、メンバーによってアダプトされているのかは明らかではありませんが、ウェールズの神話とアーサー王の伝説を唄っています。

 

左側から聴こえるツィターと思われる弦楽器と右からの少し歪んだシタール風のバンジョー、そして中央に置かれた陰りのある女性ヴォーカルが前述のフィールド録音された鳥の囀りや機関車音と一体となって摩訶不思議なアシッド感を醸しています。ウィルクスもインクレディブル・ストリング・バンドの末裔と例えた「話題のウィアード・フォーク」の極みです。

 

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2022-09-24 17:17:53
Bryony Griffith & Alice Jones『A Year Too Late and a Month Too Soon - Songs from Yorkshire』
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Bryony Griffith & Alice Jones『A Year Too Late and a Month Too Soon - Songs from Yorkshire』(Splid Records, 2022)

 

ブライオニー・グリフィスはかつてフェイ・ヒールドらと無伴奏コーラス・グループのザ・ウィッチズ・オブ・エルスウィックを組んだり、ディーモン・バーバーズというかなりカッコ良いエレクトリック・トラッド・バンドでフィドルを弾き唄っていました。アシュリー・ハッチングスの『Great Grandson of Morris On』にも参加していたのでご存じの方もいらっしゃるのでは。かたやアリス・ジョーンズもピート・コーの諸作に参加し、2014年のフランク・キッドソンを唄ったデュオ名義の『The Search for Five Finger Frank』は今も高く評価されています。またソロ作『Poor Strange Girl』もある知る人ぞ知るフォーク・ミュージシャンです。

 

二人ともヨークシャーの出身で、本作はパンデミックのなかキッドソンなど地元の収集家のコレクションや出版物、ヨークシャーの先達による音源など地元の伝統を深く掘り下げ、録音したヨークシャーのトラッド集。プロデュースはジョー・ラスビー。ブライオニーのフィドルとアリスのハーモニウム若しくはテナー・ギターのみで唄われ、ふたりの歌声が主役のシンプルなアルバムは、往年のトピックやトレイラーの名盤を想わせます。

 

そのトピック盤ではフランク・ヒンクリフの『In Sheffield Park』から〈Edward 〉が〈What Is That Blood on Thy Shirt Sleeve?〉として、ハリー・ボードマンとデイヴ・ヒラリーの『Trans Pennine』からデイヴの〈Nellie o' Bob's o' t' Crowtrees〉が唄われているのが嬉しいところ。またウォータースンズの『A Yorkshire Garland』からは〈Strawberry Tower〉と〈Willy Went To Westerdale〉がノース・ヨークシャーの農民でシンガーのジョン・グリーヴズから習ったヴァージョンで唄われています。

 

かつてオールド・スワン・バンドと肩を並べたイングリッシュ・カントリー・ダンス・バンド、ラムズ・ボトムのメンバーだったキース・ケンドリックは、リヴィング・トラディション誌のディスク・レヴューで今年のベストどころかここ10年でも指折りのアルバムと絶賛しています。必聴です。

 

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2022-09-14 15:30:55
Kim Carnie『And So We Gather』
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Kim Carnie『And So We Gather』(Càrn CÀRN001, 17 June 2022)

 

キム・カーニーはスコットランドの女性ゲーリック・シンガーで、まだ20代と思われます。自作も能くし、アルバムには英語で書かれた自作曲4曲に、ゲール語のトラッドなど6曲(1曲はゲール語詩にキムが曲を付けたもの)が2曲ずつ挟まれるように収録されています。

 

プロデュースはカパーケリーのドナルド・ショウ。ハープやフィドル(1曲ありますが)などトラディショナル色の強い楽器を排除し、ピアノやダブル・ベースを中心に据え、必要に応じてサックスやコラ(!!)なども配置した演奏が奏功し、ケイト・ラズビーをもう少しさらっとしたようなキムの歌声を際立てています。さらに自作の英語曲〈And So We Gather〉や〈Loving You〉ではケイト・セント・ジョン編曲のストリングスと相俟ってサンディ・デニーの『Like an Old Fashioned Waltz』を彷彿させたりもします。

 

カレン・マシスンやジュリー・ファウリスも参加。そのジュリーやカリン・ポルワートのようなスコットランドを代表する女性シンガーに将来化けるポテンシャルを持ったデビュー・アルバムです。

 

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2022-05-15 11:13:05
『Life and the Land』『Needle and Thread』
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04. Ben Walker & Kirsty Merryn『Life and the Land』(Folkroom Records, 2021)

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カースティ・メリンはロンドンを拠点に活躍する女性SSW。既に2枚のフル・アルバムもあり、ショウ・オブ・ハンズのサポート・メンバーとしても知られています。本作はジョシエンヌ・クラークとのコンビを解消したギターの名手ベン・ウォーカーがそのカースティ・メリンと組んでリリースしたEPです。ボーナストラックの〈The Farmer's Toast〉を含め全6曲。トラッドの他にラル&マイク・ウォータソンの〈Scarecrow〉やロバート・バーンズの〈Westlin Winds〉も。かつてウォーターソンズやオークも唄った〈Jolly Ploughboy〉ではカースティのピアノ弾き語りにベンのスライド・ギターが絡むこのふたりならではのアプローチも聴けます。

 

05. Dom Prag『Needle and Thread』(Self Released, 2022)

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ドム・プラグはサウサンプトン出身のシンガー・ソングライター兼ギタリスト。元々クラシック・ギターを学んでいたことからナイロン弦を張ったギターの弾き語りが彼の持ち味になっています。19世紀末にダラムの炭鉱地帯で活躍した労働者階級のソングライター、トミー・アームストロングの〈South Medomsley Strike〉と〈Oakey Strike Eviction〉を挟んで前半にトラッドを4曲、後半に自作曲4曲を配した選曲はかなり意図的。ショウ・オブ・ハンズのフィル・ビーアがプロデュースし、ワイルダネス・イェットのローワンとロージーがフィドルとコーラスで参加した本作はドムの2ndにして最新のアルバムです。

 

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