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Mossy Christian, Megan Wisdom『Live Sampler』Mossy Christian, Megan Wisdom, 17 April 2022
デビュー作の『Come Nobles and Heroes』が圧倒的に素晴らしかったリンカンシャーのモッシー・クリスチャンから新作です。と云っても昨年4月にリリースされていた5曲入りEPが漸く届いた次第。タイトルのLive Samplerはライヴ盤のサンプラーではなく、ミーガン・ウィズダムとこんな感じでライヴをやっているよ、と云うスタジオで録られたライヴの見本のようなものです。
ミーガン・ウィズダムはサフォークで生まれ育ち、現在はニューカッスル大学で伝統音楽を学びながら活躍するフォーク・シンガー。ソロEPもありますが、モッシーと活動することも少なくなく、この11月にもセシル・シャープ・ハウスに二人での出演が予定されています。
ピーター・ベラミーも唄った〈Young Roger Esq.〉で幕を開けるEPはもちろん全てトラッド。うち3曲がモッシーとミーガンの無伴奏デュエットで、二人の溌溂とした歌声に心が躍ります。2曲目の〈The Rambling Soldier / The Cuckoo〉はソロ・ヴォーカルのメドレー。ミーガンのホィッスルを伴奏に唄われるモッシーのソロに続けて、ミーガンが〈カッコー〉をアン・ブリッグスのヴァージョンで唄うのですが、その唄い出しが秀逸。ちょっとスリリングです。
また〈Oh Joe! / Percy Brown's〉はイングリッシュ・カントリー・ダンス・チューンのインスト。モッシーの弾くワン・ロウ・メロディオンにサックスに持ち替えたミーガンが加わった演奏はさながらタフティ・スウィフトの2nd。アルビオンのピート・ブロックが参加したあの名盤『You'll Never Die For Love』を想い起します。
そんなモッシーとミーガンの若々しいコンビネーションは今ライヴ会場に足を運んでみたくなる数少ないミュージシャンの一つです。
ご来店の際にリクエストしてください。
7月1日(土)は都合により11時30分からの営業とさせていただきます。
ご迷惑をおかけしますが、ご了承いただきますようよろしくお願いいたします。
Shirley Collins『Archangel Hill』Domino Records, 26 May 2023
御年87歳のシャーリー・コリンズの復帰第3作が届きました。前回同様プロデュースは元オイスターバンドのイアン・キアリーで、バックアップはイアンはじめデイヴ・アーサー、ピート・クーパーなど今ではお馴染みとなったロードスター・バンドの面々。録音は1980年オーストラリアでライヴ・レコーディングされた〈Hand and Heart〉を除き今回もブライトンのメットウェイ・スタジオで行われています。
唄われているほとんどのトラッドは〈Lost in a Wood〉〈Hares on the Mountain〉などかつてシャーリー自身の歌声でレコーディングされたものばかりですが、ロードスター・バンドの演奏でもう一度唄ってみたかったとのこと。新たな装いで聴き馴染んだメロディーが蘇ります。
ドリーのフルートオルガンで唄った1979年のロンドンでのライヴ・レコーディングが残されている〈The Captain with the Whiskers〉は、もともとは1820年代のアメリカで書かれ、南北戦争中とくに南軍側に人気のあった行進曲。ここではピートとデイブのマンドリン、フィドル、バンジョー、スネアドラムのバックアップによって唄われ、さらにはアラン・ロマックスの「サザン・ジャーニー」に同行した折にウェイド・ウォードとチャーリー・ヒギンズの演奏で初めて聴いたフィドル・チューン〈June Apple〉を繋げることによってこの曲に相応しいよりオーセンティックな雰囲気を醸しています。
デビュー・アルバムにも収められていた〈The Bonny Labouring Boy〉はフローラ・トンプソンの小説を舞台化した『Lark Rise』でもシャーリーとマーティン・カーシーによって唄われていましたが、残念ながら舞台をレコード化した『Lark Rise to Candleford』には収録されませんでした。2008年『Lark Rise Revisited』をリリースしたアシュリー・ハッチングスはルース・エンジェルのヴォーカルで再演しましたが、シャーリーも曲後にダンスを伴ったモリス・チューンを配置しラークライズの舞台を再現しているようです。
新曲の〈High and Away〉はシャーリーの著書『America Over The Water』を読んだギターのピップ・バーンズが作詞し、シャーリーが曲を書いたオリジナル。1959年米国のトラッド・シンガー、アルメダ・リドルがシャーリーに語ったアーカンソーの竜巻について唄っています。またタイトル曲の〈Archangel Hill〉はアークエンジェル・ヒルの自然をサウンドコラージュしたイアンのギターとピアノの演奏をバックに、第2次世界大戦出征中にサセックスへの望郷の念を綴った父親の詩を朗読したもの。スタンザ毎に"サセックス"と繰り返すシャーリーの声が印象的に響きます。
アークエンジェル・ヒルの周りをゆっくりと歩く馬の上で、歌は風に乗って人から人へと伝わり、飛んでいきます-どこへ行くのか誰にも分かりません、とライナーに記すのはシャーリー。元fROOTS誌のイアン・A・アンダーソンさんはシャーリーのキャリアの中でもベストのアルバムと評しています。
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6月25日(日)は都合により17時00分までの営業とさせていただきます。
ご迷惑をおかけしますが、ご了承いただきますようよろしくお願いいたします。
Bob Martin『Seabrook』Worried Songs, 2023
ボブ・マーティンの新作がやっと届きました。新作と云っても2008年5月ニューハンプシャー州シーブルックで録られたボブの弾き語り音源にプロデューサーのジェリー・デイヴィッド・デシッカがブラックスワンズのメンバーによる演奏を重ねて完成したものです。録音当時レコード会社とリリース条件が整わず長い間ずっとお蔵入り状態になっていましたが、2021年父親の死を予感したタミ・マーティンから連絡を受けたデシッカの手によって急遽プロジェクトが動き出し漸く日の目を見るに至りました。
全9曲(CDは11曲)中、ウェストバージニアの炭鉱についての〈Three Miles Beneath This Mountain〉や長期滞在のモーテルでの日常を唄った〈Midway Motel〉など新曲が4曲、〈Appalachian Lullaby〉や〈My Father Painted Houses〉など既発のアルバムに収録されていた曲の再演が4曲、そして『Midwest Farm Disaster』では録音されなかった最も古い曲の1つである〈Give Me Light〉が初めて披露されています。
再演曲の中で注目すべきはジャック・ケルアックの3番目の妻ステラ・ケルアックを唄った〈Stella〉。この曲には西島寛二さんの日本語による素晴らしいカヴァーもあるのでそちらでご存じの方もいらっしゃるのでは。ケルアックとは同じマサチューセッツ州 ローウェル出身のボブは母親からの影響もあり、ケルアックにはたいへん傾倒していたようで実際に会ったこともあるとか。ズバリ〈Jack Kerouac〉という曲も唄っています。この〈Stella〉には愛着があったのでしょう。3rd『The River Turns The Wheel』、ライヴ盤『Live At The Bull Run』、そして今回と3回目の録音になり、一度聴いたら忘れられない名曲です。
クリス・フォーブスやカナーン・フォークナーなどデシッカのアルバムではお馴染みの面子による抑制を効かせた演奏が齢を重ね渋みを増したボブの歌声を際立たせ、これまでに無く内省的なアルバムに仕上がりましたが、本人のボブがリリースを待つことなく2022年9月21日80歳の生涯を終えてしまったのはたいへん残念なことです。
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