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マーティン・シンプソンとナンシー・カーの新しいバンド、The Magpie Arcのデビュー10インチ『Ep1』が彼らの住むイングランド中部のシェフィールドから届きました。
マグパイ・アークはマーティンとナンシーのほか、エディ・リーダーやハイジ・タルボットともレコーディング歴のあるエジンバラの新進気鋭のSSW、アダム・ホームズに、ドラムスのトム・A・ライト(新生アルビオン・バンド!!)とベースのアレックス・ハンター(アダム・ホームズ&エンバーズ)を加えた5人組。完全なTrad-Arrではなく、むしろ『What We Did on Our Holidays』辺りのフェアポートを想わせるフォーク・ロックを聴かせます。詳しくは こちら をご覧ください。
カフェトラモナ11月のおすすめです。
上左:Varo / Varo(2020)
ヴァロはLucie AzconagaとConsuelo Nerea Breschiの二人のシンガー兼フィドル奏者によるフォーク・デュオ。フランス出身のルーシーとイタリア出身のコンスエロはアイルランドの伝統音楽への愛情を追求するため移り住んだダブリンで2015年に出会い、一緒に活動するようになりました。本作は彼女たちのデビュー・アルバムで、〈Streets of Forbes〉にインスパイアされた自作曲〈Ben Hall's Wake 〉のほかは全てトラッド。ソースをアン・ブリッグスやジューン・テイバーなどに求めた曲があるせいか70年代のブリティッシュ・フォークの味わいも。ヘレン・ダイアモンドが加わり三声アカペラで唄われる〈The Doffing Mistress〉が素晴らしい。
上右:Sam Sweeney / Unearth Repeat(2020)
ベロウヘッドやレヴァレットで活躍するサム・スウィニーは、ジャック・ラッターやフェイ・ヒールドなどのソロ・アルバムでも素晴らしいバック・アップを披露し、今ではイングランドのフォーク・シーンで欠かすことのできないフィドラーです。本作はソロ2作目で、ギターにジャック・ラッターとルイス・キャンベル、ダブル・ベースにベン・ニコラス、ピアノとキーボードにデイヴ・マッケイを配し、プロデュースには今を時めくアンディ・ベルを起用しています。楽曲ソースのクレジットは無く、トラッドと自作曲の垣根を飛び越えているようです。ジャケ写で抱える録音に使用したフィドルはデイヴ・スォーブリックのもの。スミディー・バーンの赤い夕焼けに誘います。
下左:Eden & John's East River String Band / Live At The Brooklyn Folk Festival Vol.1(2020)
イーデン・ブロワーとジョン・へネガンのイースト・リヴァー・ストリング・バンド、7枚目の最新作です。今回は初のライヴ・アルバムで、毎年ニューヨークはブルックリンの聖アン教会で開催されているブルックリン・フォーク・フェスティヴァルに出演した際の2010年から2018年までの選りすぐりの音源が収録されています。バンド・メンバーはイーデンとジョンのほか、ロバート・クラムと昨年Jalopy Traveling Folk Festivalで来日したアーネスト・ゴメス。スペシャル・ゲストにはパット・コンテ、イーライ・スミス、ジャクソン・リンチ、ウォーカー・シェパードなどがクレジットされ、ジャロピー・レコード総出でバック・アップしています。今からVol.2が待ち遠しい一枚です。
下右:Ron Sexsmith / Ron Sexsmith(1995, 2020)
1995年に発表されたロン・セクスミスのデビュー・アルバムがリリース25周年を記念してアナログ化されました。もともと名盤の誉れ高い本作にはこれまでCDでは最後にダニエル・ラノアがプロデュースした〈There's a Rhythm〉が本編とダブって収録されていましたが、今回のアナログ化に際してこのトラックが削られ、ロンが当初構想したトラックリストに戻されたとのこと。A面はアコースティック・ギターとチェロのアンサンブルが美しい、生まれたばかりの息子について唄った〈Speaking with the Angel〉で終わり、B面は育った路地の思い出〈Galbraith Street〉をアルバム唯一の弾き語りで締め括るという、いかにもSSWの名盤らしい構成の復元です。発表当時エルヴィス・コステロに「この先20年は聴き続けられるアルバム」と評価された本作、20年と云わず、あの『ブルー・リヴァー』と並ぶSSWの名盤としてレコード棚にいつまでも燦然と輝き続けるでしょう。
ご来店の際にリクエストしてください。
カフェトラモナ10月のおすすめです。
上左:Shirley Collins / Heart's Ease(2020)
2016年の『Lodestar』に続くシャーリー・コリンズの復活第2作が届きました。プロデュースのイアン・キアリー(元Oysterband)や脇を固めるアルビオン・モリスのジョン・ウォッチャム、ラトル・オン・ザ・ストーヴパイプのデイヴ・アーサーとピート・クーパーなどのバックの面子はほぼ変わりありませんが、今回はスタジオ録音。リラックスできるようにとシャーリーの自宅で録音された「暫定的」な前作に比べ、シャーリーの復活劇は本格的に幕が開けられたようです。
詳しくは こちら をご覧ください。なお〈Locked in Ice〉の作者であるバズ・コリンズのソロやアルビオン・モリス、ラトル・オン・ザ・ストーヴパイプのアルバムもコレクションしています。興味のある方はどうぞリクエストしてください。
上右:Stick in the Wheel / Hold Fast(2020)
『English Folk Field Recordings』Vol.1, 2(2017, 2019)やBelinda Kempster & Fran Foote『On Clay Hill』(2019)、Jack Sharp『Good Times Older』(2020)など素晴らしいアルバムのリリースが続いているFrom Here Records。その中心的存在であるStick In The Wheelから3枚目のアルバムが届きました。スティック・イン・ザ・ホィールは女性シンガーのニコラ・キアリーとプロデュースとバック・トラックを担当するイアン・カーターの二人組。今回はこのふたりに女性ドラマーのシャーン・モナハンと1曲だけあのジョン・カークパトリックがメローディオンで加わっています。やはり気になるのはジョン・カークの参加した〈Budg & Snudg〉。18世紀まで死刑が執行されていたロンドンのタイバーン処刑場について唄った古謡で、悪名高いニューゲート刑務所の劣悪な環境で生き残ろうとする窃盗犯の日常を唄うにはジョン・カークの重いモリスのリズムが必要だったとか。他にキプリングの詩にピーター・ベラミーが曲を付けた〈Soldier Soldier〉も収録。
下左:Cinder Well / No Summer(2020)
シンダー・ウェルはカリフォルニア生まれのアメリア・ベイカーのワンマン・プロジェクト。一緒にツアーをしたLankumの影響でアイルランド音楽を学ぶためにクレア州に移り住んだと云います。3作目の本作はワシントン州の古い教会を改築したスタジオでニッチ・ウィルバーによって録音され、メンバーはヴィオラ、コーラスのマリット・シュミットとヴァイオリン、コーラスのメイ・ケスラーのふたりが加わるのみで、自身の弾くギター、オルガン、フィドルが硬質なアメリアの歌声を際立てています。全9曲中、ロスコー・ホルコムをお手本にした〈Wandering Boy〉やジーン・リッチーの〈The Cuckoo〉、フィドル・チューンの〈Queen of the Earth, Child of the Skies〉のトラッド3曲以外はすべて自作曲。中でもタイトル曲〈No Summer〉はコロナ禍の夏を予見したかのようです。
下右:小坂忠とFour Joe Half / ロック・ソサエティ・ウラワ 1972夏の陣(2020)
小坂忠、駒沢裕城、松任谷正隆、後藤次利、林立夫というまだダイヤモンドの原石だった5人の若者が揃って活動していたのは1972年の1年足らず。これまで小坂忠2nd『もっともっと』、CDボックス『1972春一番』と2種のライヴ音源がリリースされていますが、今回1972年8月26日浦和の埼玉会館大ホールでの音源が発掘されました。『もっともっと』が3月30日の実況録音ですから約5か月後の少しワイルドなFour Joe Halfの演奏が堪能できます。若干ベース音が抑え気味ながらも録音は良く、〈春を待ってる私はこたつの中〉や〈どろんこまつり〉でのピアノとペダル・スティールのスリリングな絡みにゾクゾクさせられます。
ご来店の際にリクエストしてください。
思うように新譜が届かないため9月もこの時期になってしまいましたが、カフェトラモナ9月のおすすめです。
上左:Kenny Roby / The Reservoir(2020)
生前ニール・カサールがケニー・ロビーと一緒に作ろうとしていたアルバムがやっと届きました。当然ニールの姿はありませんが、プロデュースのデイヴ・スクールズを始め、ジェシ・エイコックやジェフ・ヒル、トニー・レオンなどHard Working AmericansやChris Robinson Brotherhoodで一緒にプレイしたニールの旧友たちが集まり、ケニーをバック・アップしています。録音はケニーが大好きだというボビー・チャールズと縁の深いウッドストック。全16曲ケニー作、7年間に書き溜めた作品には結婚生活の破綻や友人の死など日常の出来事が色濃く影を落としています。特にデモを聴いたニールがまさに自分の人生だと云ったという〈Room 125〉やニール葬送の曲〈Silver Moon (For Neal)〉を含むD面は涙なしには聴けません。ティム・ハ―ディンを想わせるケニーの歌声が遣る瀬ない傑作です。
上右:Joan Shelley / Live At The Bomhard(2020)
ジョーン・シェリーの新作は昨年12月地元ケンタッキー州ルイヴィルはボンハード・シアターで収録されたライヴ・アルバム。ジョーンは、シャーリー・コリンズの新作で素晴らしいギターを聴かせてくれたネイサン・サルスバーグやジ・アザー・イアーズのアン・クリッペンステイプルを擁するベスト・ハンズ・バンドをバックに、時折ゲストのボニー・プリンス・ビリーやジュリア・パーセルの歌声を交え、新作の『Like The River Loves The Sea』を中心に16曲を唄っています。1曲あるカヴァー曲はジェイク・ホルムズが1970年『Watertown』でシナトラに書いた〈Would Be In Love (Anyway)〉の渋すぎる選曲。ケンタッキーにあってサンディ・デニーのDNAを感じさせる素敵なアルバムです。
下左:S.G. Goodman / Old Time Feeling(2020)
ケンタッキーの女性SSW、S・G・グッドマンのソロ・デビュー作。マイ・モーニング・ジャケットのジム・ジェームズがコ・プロデュースを担当し、ルイヴィルのスタジオ、ラ・ラ・ランドで録音されています。ジョーン・シェリーを始めケンタッキーのミュージシャンが挙って参加したベネフィット・アルバム『Pine Mountain Sessions』の録音時、ジムはそのアルバムのプロデューサー、ダニエル・マーティン・ムーアから当時サヴェージ・ラドリーというバンドで活動していたグッドマンを紹介され、初めて彼女の歌声を聴いたとき魔法に懸かったそうです。アルバム制作にあたって参考にしたのがリンク・レイの『Link Wray』とのこと。それだけで聴かない訳にはいきません。
下右:June Tabor / Ashore(2011, 2018)
先のオイスター・バンドとのコラボ第3弾が素晴らしかったジューン・テイバー。オイスター・バンドやクエルクスなどグループ名義のレコーディングが続いているためソロ最新作は2011年まで遡ります。タイトルのとおり「海」に纏わる楽曲を集めたアルバムで、〈Finisterre〉や〈The Grey Funnel Line〉などかつてオイスター・バンドとのコラボやシリー・シスターズで唄った楽曲の再録音が並ぶなか、注目すべきは1982年のフォークランド紛争を唄った〈Shipbuilding〉。コステロが書き、ロバート・ワイアットがヒットさせた名曲です。84年の『Diving for Pearls』でスワン・アーケイドが唄った無伴奏コーラス・ヴァージョンが忘れられませんが、ここにジューン・テイバーが新たに名唱を加えました。
ご来店の際にリクエストしてください。
カフェトラモナ8月のおすすめです。
上左:Bob Dylan / Rough And Rowdy Ways(2020)
『Tempest』以来8年ぶりのオリジナル・アルバム。久しく聴くことができなかったディランの新曲はやはり凄い。6月19日の配信解禁以来ずっとストリーミングしていましたが、先月の終わりにやっとアナログ盤が届きました。暫くは唯々耳を傾けるばかりです。
上右:The Unthanks / Live and Unaccompanied - Diversions Vol. 5(2020)
ジ・アンサンクスはイングランドは北東端のノーサンバーランド出身のレイチェルとベッキーのアンサンク姉妹を中心とした5人組。ディヴァージョンズ・シリーズ(寄り道シリーズ?)はオリジナル・アルバムと云うよりも企画もの的なシリーズで、過去にはロバート・ワイアットやモリー・ ドレイク(ニックの母親です)のトリビュート・アルバムなどをリリースしています。本作はそのシリーズの5作目で、昨年の春のUnaccompanied, As We Areツアーの模様を収録したもの。昨年のツアーは姉妹にメンバーのニオファ・キーガンを加えた女声トリオのみによる無伴奏ツアーで、英国とアイルランドの31か所を巡ったなかから選りすぐりの13曲が収められています。なかでも〈Magpie〉は秀逸。詳しくは こちら をご覧ください。
下左:Anne Briggs / An Introduction to Anne Briggs(2018)
トピック・レコードの主要ミュージシャンを紹介するイントロダクション・シリーズのうちの一枚。A面には『The Iron Muse 』や『The Bird in the Bush 』のアンソロジーとアン・ブリッグス名義のEP『The Hazards of Love 』から2曲ずつ、B面にはトピック唯一のソロ作『Anne Briggs 』から5曲、録音後直ぐにリリースされず1996年に日の目を見た『Sing a Song for You』から1曲、全12曲が年代順に収められています。既にリリース済みのものばかりで目新しさはありませんが、この並びで聴くのも一興。ジャケットは『The Iron Muse 』録音時のワン・ショット。美しいです。
下右:Martyn Wyndham-Read / A Rose from the Bush(1984)
『Live and Unaccompanied』終盤で唄われる〈Caught in a Storm〉はアンサンクスが好んで取り上げるソング・ライター、グレイム・マイルズの楽曲です。そのマイルズを「the world champion songwriter」と賛辞し、数多く唄うシンガーにマーティン・ウィンダム・リードがいますが、本作はウィンダム・リードがマイルズ曲を初めて取り上げたアルバム。マーティン・カーシー、ジョン・カークパトリックらをバックに〈The Opal Beds of Australia〉と〈Otago〉の2曲をいつもながら朗々と唄っています。この後ウィンダム・リードはアルバム毎にマイルズ曲を取り上げ、2001年にはマイルズ集『Where Ravens Feed - Songs by Graeme Miles』をリリースします。A・L・ロイドの『Leviathan!』や『The Great Australian Legend』など歴史的名盤に参加し、ソロ作も本作をはじめ『Ned Kelly and That Gang』『Ballad Singer』『Emu Plains』などどれも充実のマーティン・ウィンダム・リードは今も現役。いつか紹介したかったシンガーのうちの一人です。
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