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Shirley Collins『Archangel Hill』Domino Records, 26 May 2023
御年87歳のシャーリー・コリンズの復帰第3作が届きました。前回同様プロデュースは元オイスターバンドのイアン・キアリーで、バックアップはイアンはじめデイヴ・アーサー、ピート・クーパーなど今ではお馴染みとなったロードスター・バンドの面々。録音は1980年オーストラリアでライヴ・レコーディングされた〈Hand and Heart〉を除き今回もブライトンのメットウェイ・スタジオで行われています。
唄われているほとんどのトラッドは〈Lost in a Wood〉〈Hares on the Mountain〉などかつてシャーリー自身の歌声でレコーディングされたものばかりですが、ロードスター・バンドの演奏でもう一度唄ってみたかったとのこと。新たな装いで聴き馴染んだメロディーが蘇ります。
ドリーのフルートオルガンで唄った1979年のロンドンでのライヴ・レコーディングが残されている〈The Captain with the Whiskers〉は、もともとは1820年代のアメリカで書かれ、南北戦争中とくに南軍側に人気のあった行進曲。ここではピートとデイブのマンドリン、フィドル、バンジョー、スネアドラムのバックアップによって唄われ、さらにはアラン・ロマックスの「サザン・ジャーニー」に同行した折にウェイド・ウォードとチャーリー・ヒギンズの演奏で初めて聴いたフィドル・チューン〈June Apple〉を繋げることによってこの曲に相応しいよりオーセンティックな雰囲気を醸しています。
デビュー・アルバムにも収められていた〈The Bonny Labouring Boy〉はフローラ・トンプソンの小説を舞台化した『Lark Rise』でもシャーリーとマーティン・カーシーによって唄われていましたが、残念ながら舞台をレコード化した『Lark Rise to Candleford』には収録されませんでした。2008年『Lark Rise Revisited』をリリースしたアシュリー・ハッチングスはルース・エンジェルのヴォーカルで再演しましたが、シャーリーも曲後にダンスを伴ったモリス・チューンを配置しラークライズの舞台を再現しているようです。
新曲の〈High and Away〉はシャーリーの著書『America Over The Water』を読んだギターのピップ・バーンズが作詞し、シャーリーが曲を書いたオリジナル。1959年米国のトラッド・シンガー、アルメダ・リドルがシャーリーに語ったアーカンソーの竜巻について唄っています。またタイトル曲の〈Archangel Hill〉はアークエンジェル・ヒルの自然をサウンドコラージュしたイアンのギターとピアノの演奏をバックに、第2次世界大戦出征中にサセックスへの望郷の念を綴った父親の詩を朗読したもの。スタンザ毎に"サセックス"と繰り返すシャーリーの声が印象的に響きます。
アークエンジェル・ヒルの周りをゆっくりと歩く馬の上で、歌は風に乗って人から人へと伝わり、飛んでいきます-どこへ行くのか誰にも分かりません、とライナーに記すのはシャーリー。元fROOTS誌のイアン・A・アンダーソンさんはシャーリーのキャリアの中でもベストのアルバムと評しています。
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