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5月21日に84歳になった御大マーティン・カーシーの久々の新作が届きました。
Martin Carthy『Transform Me Then Into a Fish』Hem Hem Records, 21 May 2025
84歳の誕生日を迎えたマーティン・カーシーの新作です。1965年の1stアルバムのリリースから60年。長きにわたる音楽キャリアを振り返り、1stから〈The Trees They Do Grow High〉〈Ye Mariners All〉〈Lovely Joan〉〈The Handsome Cabin Boy〉〈A-Begging I Will Go〉〈High Germany〉〈Scarborough Fair〉〈Spring Hill Mine Disaster〉の8曲を取り上げ、唄い直しています。
ただ〈Scarborough Fair〉はポール・サイモンに教えた1stのヴァージョンではなく、2018年ノーマ・ウォータソン&イライザ・カーシーの『Anchor』でレコーディングされた新ヴァージョン。マーティンにとって旧ヴァージョンは重荷になっていたのかイマジンド・ヴィレッジのアルバムでも自身では唄わず、代わりにクリス・ウッドが唄っていました。この新ヴァージョンとの出会いは嬉しかったようで、『Anchor』に続き昨年のレズ・カズンズのトリビュート・コンサートでも唄い、その時の様子はカセット盤『A Tribute to Les Cousins』にも収録されています。今回のレコーディングで3度目、やっと新ヴァージョンが自身のアルバムにも収められました。
1stに収められていなかった〈Dream Of Napoleon〉はノーフォーク出身のサム・ラーナーのレパートリーから。サムはマーティンが初めて聴いたトラディショナル・シンガーで、マーティンが17歳で、サムが80歳の時、サムの音楽性と情熱に圧倒されたとのこと。トピック・レコードの80周年記念盤『Vision & Revision』でも唄われていましたが、マーティン名義のアルバムには初めての収録になりました。
続くワーテルローの戦いで命を落とした多くの人々を悼む〈Eighteenth of June〉はロッド・ストラドリングの歌唱で有名なトラッドですが、ロッド曰くマーティンに多く負っているとのこと。しかしマーティンは改編に改編を重ね作り上げたのはマイク・ウォータソンだと云います。残念ながらマイクの音源は見つけられませんでしたが、ウォータソンズのアンソロジー『Mighty River of Song』にはノーマが唄ったものが〈Poor Boney〉のタイトルで収録されています。今回初めて自身のアルバムに収められたマーティンのヴァージョンとロッドやノーマの歌唱と聴き比べるのも一興です。
〈The Famous Flower of Serving Men〉の初出は1972年の『Shearwater』。この9分を超えるマーダー・バラッドにマーティンは殊のほか思い入れが深く、その後2004年の『Waiting for Angels』でも唄い直し、ライヴ盤の『The Kershaw Sessions』や『Ruskin Mill』にもライヴ音源を収録しています。トラッド・シンガー、マーティン・カーシーのレパートリーから代表曲を一曲だけ選ぶとすると、この曲を挙げるファンも少なくないはず。今回これをスポークン・ワードの作品として収録したのは新たな展開? 興味深いことです。
全11曲、最後の〈Spring Hill Mine Disaster〉のみイワン・マコールとペギー・シーガーの作品で、他はトラッド曲。イライザ・カーシーとイマジンド・ヴィレッジのシタール奏者シーマ・ムケルジーが3曲ずつ参加し、84歳になったマーティンは先のサム・ラーナーやハリー・コックスの域に達したようです。タイトルのTransform Me Then Into A Fishは〈Ye Mariners All〉の1節から。ジャケットはかつてハルの自宅で撮ったノーマとの朝食の写真を想起させ、ノーマの空席が悲しみを誘いますが、ジャケット内側にはギターを抱えパレットで荒波を乗りこなすマーティンも。ライナーはフォーク・シンガーのジョン・ウィルクス。大役を務めています。
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