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Bob Martin『Seabrook』Worried Songs, 2023
ボブ・マーティンの新作がやっと届きました。新作と云っても2008年5月ニューハンプシャー州シーブルックで録られたボブの弾き語り音源にプロデューサーのジェリー・デイヴィッド・デシッカがブラックスワンズのメンバーによる演奏を重ねて完成したものです。録音当時レコード会社とリリース条件が整わず長い間ずっとお蔵入り状態になっていましたが、2021年父親の死を予感したタミ・マーティンから連絡を受けたデシッカの手によって急遽プロジェクトが動き出し漸く日の目を見るに至りました。
全9曲(CDは11曲)中、ウェストバージニアの炭鉱についての〈Three Miles Beneath This Mountain〉や長期滞在のモーテルでの日常を唄った〈Midway Motel〉など新曲が4曲、〈Appalachian Lullaby〉や〈My Father Painted Houses〉など既発のアルバムに収録されていた曲の再演が4曲、そして『Midwest Farm Disaster』では録音されなかった最も古い曲の1つである〈Give Me Light〉が初めて披露されています。
再演曲の中で注目すべきはジャック・ケルアックの3番目の妻ステラ・ケルアックを唄った〈Stella〉。この曲には西島寛二さんの日本語による素晴らしいカヴァーもあるのでそちらでご存じの方もいらっしゃるのでは。ケルアックとは同じマサチューセッツ州 ローウェル出身のボブは母親からの影響もあり、ケルアックにはたいへん傾倒していたようで実際に会ったこともあるとか。ズバリ〈Jack Kerouac〉という曲も唄っています。この〈Stella〉には愛着があったのでしょう。3rd『The River Turns The Wheel』、ライヴ盤『Live At The Bull Run』、そして今回と3回目の録音になり、一度聴いたら忘れられない名曲です。
クリス・フォーブスやカナーン・フォークナーなどデシッカのアルバムではお馴染みの面子による抑制を効かせた演奏が齢を重ね渋みを増したボブの歌声を際立たせ、これまでに無く内省的なアルバムに仕上がりましたが、本人のボブがリリースを待つことなく2022年9月21日80歳の生涯を終えてしまったのはたいへん残念なことです。
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