Information
昨年の冬、ジョン・ボーデンがイライザ・カーシーと唄った〈Fairytale of New York〉は、同曲をモリス・チューンに仕立てあげた聴き応えのあるヴァージョンでしたが、計らずもシェイン・マガウアンの追悼になってしまったのは残念なことでした。そのジョン・ボーデンの新作です。パーラー・ミュージックに取り組んだ傑作をお楽しみください。
Jon Boden & The Remnant Kings『Parlour Ballads』Hudson Records, late October 2024
ジョン・ボーデンの新作です。今回のテーマはパーラー・ミュージック。ヴィクトリア朝の時代に英国の中流家庭の居間でピアノの普及とともに隆盛を極めたパーラー・ミュージックですが、これまでミュージック・ホールの音楽と同様にあまり良いイメージで語られていませんでした。むしろ否定的に扱われてきたパーラー・ミュージックを捉え直そうというのが本作です。
とは云ってもシリル・タウニーの〈Oggie Man〉やキプリングの詩にピーター・ベラミーが曲を付けた〈Danny Deever〉など戦後の新しい楽曲も唄われ、〈On One April Morning〉や〈Bonny Bunch of Roses〉など聴きなれたトラッドやニック・ジョーンズでお馴染みの〈Rose of Allendale〉が取り上げられるなど、ジョンがパーラー・ミュージックを広義に考えているのが分かります。そしてそれが奏功して素晴らしいアルバムに仕上がっているのも納得です。またレムナント・キングスの新メンバー、M・G・ボウルターによるペダル・スティール、ラップ・スティール、ドブロの使用もアルバム成功の要因のひとつ。ジョンの硬質なピアノの弾き語りに纏わりつくように奏でられるスライド系のギターの醸す浮遊感は、ジョンのパーラー・ミュージックに加わった新たな魅力と云って良いでしょう。
昨年のイライザ・カーシーと組んだクリスマス・アルバム『Glad Christmas Comes』は素晴らしいアルバムでしたが、引き続き今年もジョン・ボーデンのアルバムがベスト・アルバムの一枚になりました。ライナーにもあるとおりジョンのヴァージョンに一番近いと云われるバリー・ドランスフィールドの〈Bonny Bunch of Roses〉やウォルター・パードン、ピーター・ベラミー、ダミアン・バーバーの3つの世代で唄われた〈Old Brown's Daughter〉、ジョンがはじめて聴いたウィル・ノーブルとそのお手本となったアーサー・ハワードの〈Merry Mountain Child〉など、ジョンのヴァージョンと聴き較べてみては如何でしょう。
ご来店の際にリクエストしてください。